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YIDFF 2005 インターナショナル・コンペティション
ダーウィンの悪夢
フーベルト・ザウパー 監督インタビュー

映画から立ち上がってくるものを感じてほしい


Q: タイトルの『ダーウィンの悪夢』にはどんな意味が込められているのですか?

HS: 私が言いたいのは、私たちは社会的ダーウィニズムの中に生きているということです。ダーウィニズムの原則は、適者生存であり、しかもそれは当然の成り行き、つまり自然の法則だということです。私たちの住む社会でも、本来の生物学的ダーウィニズムと同様のことが起こっています。私は、社会的ダーウィニズムは、グローバルな新しいタイプのファシズムであると思うのです。だからとても危険なのです。

Q: インタビューに答えている人たちは、なんでも話してくれているように見えますが、どのように撮影したのですか?

HS: まず、“インタビュー”という言葉が私は好きではないのです。この作品では、彼らと普通に会話をしている中で、自然と撮影することができました。撮影するまでには、1年ぐらい時間をかけて、彼らの一人ひとりと話をしています。私の他の作品の話や、撮影している理由、何に困っているのかなど、自分の話をしているうちに、自然と撮影する雰囲気になっていったのです。一部のメディアでは、私が身分を偽ってすべてのシーンを撮影した、と言われているようですが、それは違います。軍隊や警察などの当局に関係する部分では、身分を偽らざるをえない時もあります。でも普通の人たちを撮影する時にそういうことはありません。9.11以降は輸送機の中に乗客として乗り込むことができなくなりました。大統領の許可が必要だったのですが、それが手に入らなければ、偽の身分証を作らざるをえない状況でした。そのため偽のパイロットの身分証を作り、パイロットの制服を着て空港を通りました。撮影するためには、このようなことがどうしても必要になるのです。

Q: 実際に映画の中では“グローバリゼーション”という言葉を使っていませんが、“グローバリゼーション”についてどのような考えをお持ちですか。また、それを映画として表現する時に心がけたことは何ですか?

HS: 物事を“説明”するような映画にしたくなかったのです。むしろ作品を見た人の頭の中に何かを喚起するような、そんな作品づくりを心がけています。観客もただ情報を得るより、何かを自然に感じとりたいと思うはずなので、一方的に意見を押しつけるような表現はしないようにしています。一人ひとりが観て、この状況はあまりに不公平なのではないか、と自然と考えることができるような映画にしたいのです。この映画は、資本と商品のグローバル化をめぐる話ではありますが、そのことを具体的に言葉で表現したくはなかったのです。

 現代社会は情報が氾濫していますが、そこから抜け落ちてしまっている事柄があります。そこで、芸術表現が重要になってくるのです。アフリカで子どもたちが次々と亡くなっていることや、AIDSが蔓延していることなどは、情報としてよく知られていることではありますが、映画を観た後に、物事はそれほど単純ではないことに気づくはずです。複雑で詩的な映像表現をすることで、タンザニアで暮らす一人ひとりの現実が、浮かび上がってくるのだと思います。

 魚や原油などの産地に住む人が、過酷な生活を強いられている一方で、私たちは、その製品による恩恵を受けています。たとえば、キャットフードのツナ缶の生産をしている人々は、そのツナを買うお金すらありません。コンゴでは、ダイヤモンドを巡って同じことが起きています。すべて問題の構造は同じなのです。この映画を通して、その問題構造に自然に気づいてもらえればと思います。

(採録・構成:加藤初代)

インタビュアー:加藤初代、佐藤久美子/通訳:斉藤新子
写真撮影:畑あゆみ/ビデオ撮影:小山大輔/ 2005-10-10