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YIDFF 2009 インターナショナル・コンペティション
要塞
フェルナン・メルガル 監督インタビュー

要塞の中をのぞく


Q: 監督は、誰のために映画を作っているのですか?

FM: 何よりも、自分の社会や国のために作っています。私にとってドキュメンタリーとは、議論の場となるものなんです。古代ギリシャには、人々が集まって、社会や政治問題を議論するための「アゴラ」という広場がありました。それぞれの町にアゴラがあったんです。私にとってドキュメンタリーは、現代のアゴラです。映画を見せるだけでなく、その後、人々と意見を交換し合うことが重要なんです。質問に答える時は、私だけなく、他の人も連れてきます。私の映画の構成の仕方は、多くの観客に疑問を残します。意識的に、そうしているんです。それぞれの登場人物に、どのような決定が下されたのかが分からないから疑問が残る。その後、登場人物たちを会場に連れてきて、一緒に議論します。すごく簡単でしょう! だから私にとっては、映画を作ることが非常に大切なんです。私の映画が他の国で上映されることについては、あまり気にかけていません。私が映画を作るのは、主に自分の国のためなんです。今まさに起こっていることについて議論しているのですから、話し合いはとても大切です。

Q: 監督にとって、移民問題が重要な理由は?

FM: まず第一に、私自身が移民の息子だということが挙げられます。それに移民問題は、現代の大問題です。人々は、文明の始まりから、常により良い土地へ行こうとしてきました。常にです。でも現代では、世界人権宣言が、すべての人間は世界のどこへでも移転し、そこに居住する権利を有するとうたっているにもかかわらず、多くの人にとって、それは不可能なことになってしまっています。現在、より良い土地に住みたいと願う人々が、世界中に3億人います。このうち3000万人がジュネーブ条約によって難民とみなされています。昨年、日本では57人しか受け入れなかったのですか? それはどうかと思いますね。

Q: この映画は、施設の壁の落書きのショットで終わります。このイメージで終わることで、観客にどんなメッセージを伝えたかったのですか?

FM: 私は自分の映画の中に、メッセージを盛り込んだことはありません。でも私はあの落書きを見て、ニューヨークのエリス島を思い出しました。自由の女神のそばにあり、19世紀に新たな移民たちが到着した島です。彼らはアメリカに到着すると、検疫のため、そこへ行かなければなりませんでした。島の壁には、彼らが家族のために書いた、「私はここに来た」というメッセージが、今でもたくさん残っています。壁全体が、そういうメッセージで埋まっているんです。落書きを見て、新しいエリス島、希望の地を連想しました。

(採録・構成:ローラ・ターリー)

インタビュアー:ローラ・ターリー、津本真理/翻訳:村上由美子
写真撮影:土谷真生/ビデオ撮影:伊藤歩/2009-10-11