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YIDFF 2009 ニュー・ドックス・ジャパン
あんにょん由美香
松江哲明 監督インタビュー

こんにちは、由美香さん


Q: まず、亡くなった人を、亡くなって間もない時期に撮るのは、大変なことだと思うのですが、なぜ今、林由美香さんについて撮ろうと思ったのかを教えてください。

MT: この作品の場合、由美香さんに関係のある人たちが、今の時間で、今生きている場所で、由美香さんについて話しているのを撮れば、大丈夫だという自信がまずありました。いなくなった人を生き返らせるというか、記憶することで、観る人にそれぞれの形ができるというのは、すごく映画的な作り方で、僕はそういう映画が好きなんです。それから女性の裸を何十年も見続けている人は、普通の人とは違う角度から人を見てきたんだというのがわかって、おもしろいんです。この作品は、会ってすぐに撮影したんですけど、うまくいくという自信はありました。なぜ今、林由美香なのかと聞かれると、出会ってしまったから、としか言いようがないですね、『東京の人妻・純子』と。あの作品を見つけていなかったら、僕はこの映画、撮っていないです。

Q: 『東京の人妻・純子』の、どこに惹かれたのですか?

MT: 一番惹かれたのは、由美香さんがいつも通りだったところです。彼女は、どんなに酷いシナリオでも手を抜かないんです。今の役者は、事務所のために映画を作っているみたいな点が、あまりにも多くて、由美香さんみたいな女優さんは、いなくなってしまったなあと思います。それから、あの作品からは他の国の文化について、すごく真面目に考えている跡が見えたんです。間違いはあるけど、馬鹿にしているわけではないんです。他の国の文化って間違って捉えて当然なんですけど、間違っているよと、面と向かって言わないから、言葉がきつくなったり、暴力的になったりする。そういうことを、由美香さんがひょいと越えてしまっていることなどが見えてくるなというのが、僕の中ではあったんです。僕がこの映画で撮ったのは、女優・林由美香なんですよ。彼女の新しい側面に出会うという意味で、これは由美香さんの最後の主演作ではなく、最新主演作にしたかったんです。

Q: ラストシーンにこめられた想いは何だったんですか?

MT: この作品は最初の1年半で、ほぼ撮影は終わったんですが、編集に悩んだ時期が1年ほどありました。その間に観る人に伝えたいことというのは変わっています。なぜあのラストにしたかというと、去年僕の周りで人を信じられなくなる出来事が続いて、自分が信じられるものが映画しかなかったんです。そういった中で作品と向き合った時に浮かんだのが「それではまた、由美香さん」という言葉でした。今の自分が信じられるのは、あのラストなんです。でもドキュメンタリーは、必ずしも僕の伝えたいことが、観客に伝わらなくてもいいと思うんです。自分の伝えたいことが、お客さんと違う時があるんですけど、それがおもしろいですよね。

Q: 今回、この作品が山形で上映されることについて、どういう気持ちですか?

MT: 僕が山形について最初に思うのは「ただいま」って言葉なんです。作品を観ているお客さんの横にいることの、快感や大切さを教えてくれたのは山形でした。自分の作品がどう見られるかということを直接感じて、声を聞いて、そのあと一緒にお酒を飲むという経験ができる映画祭は、他にはないですね。だから、自分の作品が山形で上映されるとき「ただいま」というのが、僕の中の、一番強い気持ちです。

(採録・構成:広谷基子)

インタビュアー:広谷基子
写真撮影:加藤孝信、保住真紀/ビデオ撮影:加藤孝信/2009-09-17 東京にて