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YIDFF 2009 ニュー・ドックス・ジャパン
THE ダイエット!
関口祐加 監督インタビュー

何かを乗り越えるということ


Q: 関口監督ご自身が被写体となっていますが、どのように撮影されたかについてお聞かせください。

SY: やはり、カメラマンとの信頼関係が大切でしたね。私は被写体としてフレームの中にいるので、 カメラの横にいることはできない。私が監督である以上、勝手にどんどん撮られても困ってしまう。なので、私のやりたいことを理解してくれて、任せられるカメラマンを探したのですが、なかなか見つからず、大変でした。カメラを廻すにあたっては、ふたつのお願いをしたんです。ひとつは、私が嫌がっている時でも、カメラを止めずに廻すこと。もうひとつは、感傷的な場面になった時に寄らないこと。このふたつは監督としての演出で 、これさえ守ってくれたら何でもありでしたね。30人中28人目に決めたカメラマンは、日本語がわからない中でも、感覚で撮ってくれていましたし、実家で母とふたりで話すシーンではぐっと引いてくれたりと、とても私を理解してくれていました。

Q: あのシーンは、とても印象的でした。

SY: 今まで一度も、母に「帰って来て欲しい」と言われたことはなかったので、私自身も、カメラや照明の方々がいた中で、ああいった状況になるとは予想していませんでした。母はするどい人ですから、カメラを意識して、言うべきことを見抜いていたのかもしれない。今まで言えずにいた言葉を言えたのは、母の潜在意識の中で、カメラがあったからかもしれないです。カメラがはいることで素直になったり、状況が変わることがある。カメラという存在のおもしろいところです。

Q: なぜダイエットという問題を、コメディータッチで描いたのでしょうか?

SY: アン・リー監督から「コメディーの才能がある」と言われたのがきっかけですね。ドキュメンタリーは、社会の不正義や日常を扱うなど、テーマが広い。その中で、コメディーという表現は、意外性があると思ったんです。何を撮るかをずっと考えている時期に、不幸な結婚生活で、ピザを暴食している自分に気づいたんです。人を笑うのは辛いですから、自虐路線のコメディーをと思いました。なので、コメディーを撮ろうと思って作った映画ですね。

Q: 話が後半へと進むにつれて、関口監督ご自身の精神面へと向かっていきますが、それは意図されていたこととは違うのでしょうか?

SY: そうですね。映画を撮る前から、単にダイエットするのではおもしろくないので、「何を食べるか」ではなく「なぜ食べてしまうか」の部分に注目していたんです。そこで、カウンセリングという方法を仕掛けたのですが、何が出てくるかは、私自身にもわからないことだったんです。我が身をさらすのは辛いですが、映画としてはおもしろくなったな、というところです。私は、映画を撮る時、自分が、行きたくないと思う場所や、怖いと思うことに、あえて突っ込んでいくということが、大事だと思っています。この壁をこえないと、監督として大きくなれないと、自分の中でわかっているんです。映画を作る人たちが沢山いる中で、自分が何かを表現し、訴えたい時に、人と違うものを作る事がまず大切だと思います。映画を撮る事によって、もしかしたら自分や周りが 壊れてしまうかもしれない。でもそういう中に、あえて踏み込んで映画を作ることが大事です。それが出来る人間が、いい作品をつくれるんだと思います。

(採録・構成:一柳沙由理)

インタビュアー:一柳沙由理、保住真紀
写真撮影:加藤孝信、保住真紀/ビデオ撮影:加藤孝信、保住真紀/2009-10-02 横浜にて