english
YIDFF 2011 回到一圏:日台ドキュメンタリーの12年後
幽閉者たち新しい神様
土屋豊 監督インタビュー

12年の年月を経て


Q: 『幽閉者たち』を制作した経緯を教えてください。

TY: この作品は、足立正生監督の『幽閉者 テロリスト』のメイキングなのですが、前作の『PEEP "TV" SHOW』の配給会社であるスローラーナーが足立監督の作品の配給会社であったため、スローラーナー側から足立監督の最新作のメイキングを制作してほしいという依頼を受けたのが、直接のきっかけです。足立監督と実際に初対面したのは、足立監督がパレスティナから35年ぶりに帰国した2000年頃、『映画芸術』という雑誌に足立監督へのメッセージを寄稿したことがきっかけで、前作の『PEEP "TV" SHOW』のトークイベントに足立監督が来てくださった時でした。

Q: 土屋監督の思う、足立監督の魅力とは?

TY: 60〜70年代頃に、映画で運動をする・映画で表現をする、ということの最前線にいた監督であり、映画で社会が変えられるということを体現した監督であると思います。私自身もまた、「VIDEO ACT!」というプロジェクトの主宰をし、ビデオという道具を使って少しでも社会を変えていきたい、と活動しているので、そういった意味でも強く惹かれるところがあります。また『幽閉者 テロリスト』では、今という状況の中で、足立監督が映画で何を表現するのかということが、非常に興味深いことでもありました。

Q: 土屋監督は、「VIDEO ACT!」を主宰されていますが、昨今の映画業界の流れについて、どう思われますか?

TY: 今に始まったことではありませんが、大きな映画というのは予算をかけて必ずヒットするものを制作するために、決まりきった作品ばかりが出てきてしまいます。映画を観て単純に「おもしろい」という感想しか抱かないというのは、テーマパークのアトラクションを見るのと大して変わらないのではないでしょうか。驚くようなものがでてくるためにも、小さな映画に対して予算をどう作るのか、ということを制作する側としても考えていく必要があるのではないか、と思います。

Q: 99年のYIDFFで上映され、大きな反響を呼んだ『新しい神様』が制作されてから約12年が経過しますが、この間に何か監督の中で変化したことはありましたか?

TY: 『新しい神様』は、主演の雨宮処凛さんがビデオを持ちだし、彼女自身のビデオ日記のような手法を用いて制作しています。こういった方法は、私自身のコントロールを離れて成立してしまうという点で非常におもしろかった。次の作品では劇映画を作りたいと思い、『PEEP "TV" SHOW』を制作しました。ひとつひとつのシーンをすべて管理しながら作っていくという劇映画の構造は、ドキュメンタリーと大きな違いがあり、劇映画の魅力もまた発見できました。

Q: 最新作も劇映画の手法を用いて制作されていると聞きました。

TY: そうですね。大きく言って監視社会、ということをテーマに劇映画として制作しました。しかし今回も劇映画を制作したことによって、もう一度ドキュメンタリー作品を作りたいという気持ちになっています。ドキュメンタリーのおもしろさは予測できないことが起こってしまうという点であり、それはドキュメンタリーにしかできないことです。劇映画とドキュメンタリーそれぞれのおもしろさを感じつつ、現在はドキュメンタリーへの気持ちが強い、と思います。

(採録・構成:千葉美波)

インタビュアー:千葉美波、広谷基子
写真撮影:久保田智咲/ビデオ撮影:藤田純夫/2011-10-10