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YIDFF 2015 インターナショナル・コンペティション
戦場(いくさば)ぬ止(とぅどぅ)
三上智恵 監督インタビュー

We Shall Overcome


Q: 「まずは、ただいまを言わせてください」と上映後挨拶されましたが、三上監督にとってヤマガタとはどんな映画祭ですか?

MC: 前回初めて来た時、ヤマガタはまさか自分が監督として来るとは思っていなかった場所でした。でも、授賞式で、原一男監督と崔洋一監督から金色のバトンの形をしている監督協会賞のトロフィーをいただいた時に、「監督になれよ」というバトンを受け取った気がしました。

Q: ヤマガタで、『戦場ぬ止み』の英語字幕を初めて観ました。タイトルを『We Shall Overcome』にした理由は何でしょうか?

MC: これはアメリカで黒人解放の人権運動の中で歌われたゴスペルです。ベトナム戦争時は世界中で反戦の歌として歌われ、韓国では民主化運動で権力の前に倒れていく人々が歌いました。沖縄も同じなのです。オキナワは決して特別な場所ではありません。この歌が歌われるとき、必ずそこには権力と闘っている人がいる。世界中の弱い人々の身近にあり、民衆の、人権の、反戦のメッセージで世界を繋ぐこの歌で、沖縄の思いを世界に語れるのではないかと思いました。

Q: テレビ局を辞めてフリーランスの監督になったことで変化はありましたか?

MC: よく聞かれるのですが、アナウンサー時代から沖縄で基地や戦争をテーマにドキュメンタリーは撮ってきたので現場での気持ちは変わりません。ただテレビの世界では、反対派を撮るなら賛成派も撮らなければいけない。中立でなければならないんです。私はこの中立論が大嫌いです。

Q: 映画では、糸満の激戦で火炎放射器に焼かれながら生き残った文子おばあや、名護市への基地移設と家族ぐるみで17年も闘っている武清さん一家、基地の反対運動を嫌う辺野古の漁師の仲村さんなど、反対派、容認派、それすらはっきり定義できない複雑な環境のもとにいる沖縄の人々を描かれています。彼らを描くことで、重層的な沖縄の問題を描くという狙いがあったのですか?

MC: 彼らに寄り添って行くうちに、この人たちの気持ちを分かってもらえたら見えるものが違ってくる、と思いました。その理由には、本土と沖縄の間にある基地問題に対する歴史観の違いがあります。たとえば、菅さんは2年前の知事の基地建設承認を根拠とした辺野古の埋め立て工事を正当化していますが、沖縄には基地反対への70年の歴史があり、この2年を軸に考えられたのでは沖縄の基地問題は理解できません。ですから、70年の戦後の時間軸をもつ文子おばあや、17年も続く移設反対運動をする武清さん一家を描き、沖縄の歴史を描きたかったのです。

Q: 映画の中で、何度も民意を踏みにじられながら、それでも泣きながら立ち上がり、また笑いながら闘う沖縄の人々の原動力とは何でしょうか?

MC: 沖縄の人々は70年の間、平和を守るため最前線で闘ってきています。彼らには長く闘いを続けていく知恵があります。そして時に歌い、踊り、異なる立場に立っていても、誰も置いていかない、「ありがとう、そっちの気持ちもわかるよ」と理解して共存しようとする。

 今、東京では安保法案が可決され、中央でも人々の心の平和は崩れつつありますが、そんな時に、沖縄の人の闘いはとても良い処方箋になるのではないでしょうか。

(採録・構成:沼田梓)

インタビュアー:沼田梓、大丸聖夏乃
写真撮影:石沢佳奈/ビデオ撮影:平井萌菜/2015-10-10