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YIDFF 2015 アジア千波万波
太った牛の愚かな歩み
ガージ・アルクッツィ 監督インタビュー

愛について考え、山形で感じた愛のかたち


Q: 4年前に起こった出来事を、このタイミングで映画にしたのはなぜですか?

GA: 距離が理由です。シンガポールやソウルにいたときは、ベルリンから離れていたため、4年前に起こった出来事が頭の隅に追いやられていました。しかしサラエボに帰ると、そこからベルリンまでは飛行機で2時間という距離です。その近さが4年前のことを私に突きつけたのです。

 それに加えて、私は自分に起こった出来事を深く理解するのにとても時間がかかるタイプなのです。いつの間にか4年という歳月が経っていましたが、友だちと会い過去の話をするうちに、深く後悔しました。そしてその後悔を消化することができず、ベルリン行きを決めました。

Q: ベルリンで同性婚をしているカップルを撮った理由は何でしょう?

GA: 私が抱えている問題に向き合う前に、ワンクッション置きたかったからです。さらに、問題を考えるきっかけも欲しかったのです。ベルリンの友だちに会い、その問題とどのように向き合えばいいのか、どうやって向き合っていこうかを考えました。自らの現実を見つめる前に、周りで起こっていることや、友人の感じる幸せなどを受け入れ、少しずつ、問題の核心に迫っていこう、と思ったのです。

 私がこの作品の制作に関わっている、という点も考慮しました。いきなり問題の核心に迫ると、感情的になりすぎてしまいます。私は、演者でもあり制作者でもあるので、感情から自分を守らなければなりませんでした。その意味からも、はじめにベルリンのカップルを撮りました。

Q: 映画のタイトルは何を意味しているのでしょうか?

GA: 映画のテーマである“愛”を考えたとき、何かに自然と魅きつけられる、引っ張られてどこかへ行く、そんな牛のイメージが浮かびました。さらに、私はよく自分自身のことを、面白おかしく「太ったアジア人の男の子」と言うのですが、それともリンクさせ、この映画のタイトルが生まれました。

Q: 最後の場面で、「サラエボに帰国してまず最初にすることは、母に電話をすること」と言っていましたが、実際に電話をしたのですか?

GA: 心理的な面で家族のサポートが欲しかったことに加え、映画に対する自分の気持ちに区切りをつけるため、母に電話をしました。映画を撮っている間はとても楽しかったのですが、編集作業は自分と向き合わなければならず、その精神的な負担は想像を超えていました。私は少し鬱っぽくなったり、学校に行きづらくなったりしました。

 でも、どこかで編集を終わらせなくてはいけない、次に進まないといけない、と思い、母に電話をし、自分の気持ちを切り替えようとしたのです。母と交わしたのはとりとめのない会話でしたが、声を聞くだけで元気になり、けじめをつけることができたと思います。

Q: 今回、日本での初上映が山形だった感想はいかがでしょうか?

GA: とても嬉しかったです。ほかの国・地域では、私の映画は、若い世代が観る機会が多いのですが、山形では世代を超えていろいろな層の人に観てもらえました。

 また上映後の質疑応答では、とてもオープンな雰囲気のなか、年配の人からいろいろな質問を受けました。私の映画を観て私に問いかける、そのようにして作品に応えてくれたことに、私は愛を感じました。“愛”はこの映画のテーマですが、質疑応答でも、観客の人間性というか、情のような何か、すなわち愛を強く感じ、心が温まりました。

(採録・構成:狩野萌)

インタビュアー:狩野萌、高橋明日香/通訳:渡部文香
写真撮影:鈴木萌由/ビデオ撮影:藤田愛/2015-10-10