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YIDFF 2015 アジア千波万波
ラダック それぞれの物語
奥間勝也 監督インタビュー

世界一長い物語からひも解く、「継承」の在り方


Q: 『ラダック それぞれの物語』を観ていくうちに、この映画は「ケサル物語」について解明することが目的ではなく、それにまつわる人とのつながりや、触れ合いなどを撮ろうとしているのだとわかりました。最初から、“人”に焦点を当て、映画を撮ろうと思ったのか、それとも、撮っていくうちに焦点が“人”へと移っていったのか、どういった経緯があったのでしょうか?

OK: もともと、人とのつながりや、「ケサル物語」がどのように現地の人々に受けとられているのかなどに興味があり、撮影を始めました。「ケサル物語」は世界一長い物語といわれているので、僕がいきなり行って、聞けるものではありません。おじいさんやおばあさんから、「ケサル物語」の好きな部分が聞けると、おのおのに好きな部分の違いがでて、そこに面白さを感じることができるのではないかと思いました。

Q: 「ケサル物語」は知っていましたか?

OK: はい、知っていました。しかし、知っているといっても、本当に名前だけです。一応、図書館で子ども向けにまとまっていた本は読みましたが、内容について詳しく知っているわけではありません。

Q: 最初が少年2人で始まり、最後も彼らで終わるのにはなにか意図があったのですか?

OK: 最初と最後に子どもたちが登場するのは、最初から念頭に置きながら撮影しました。もともと、今回の映画は、学校を元気にする目的がある、「アースアートプロジェクト イン ラダック 2014」の一環で製作したものです。だから、現地の人が観て、楽しいものをつくりたいという思いと、子どもたちと一緒につくりたいという思いがありました。

Q: 少年2人は現地に行って、監督ご自身が選ばれたのですか?

OK: 僕が選びました。理由は単純に仲が良かったからです。すごく元気で、飛び回っていたので、彼らはいいな、と思い選びました。

Q: 監督は前作でも今作でも“受け継ぐ・継承”に焦点を当てていますが、なにか特別な思いがあるのでしょうか?

OK: たとえば、ある出来事を話して、すぐに「ああ、知ってる。あれはこういうことでしょ?」ってなるのが嫌なんです。なんだか、一枚のページを見せられて「これでしょ」って言われているような感じで。本当はそうなのですが、でも、そこに至るまでには、言葉にできないことや、目に見えないことがあり、そういうことを踏まえたうえで理解しないと、なにか違うのではないか、と思ってしまうのです。

Q: ラダックの「ケサル物語」も、「はい、これが物語です」というわけではなく、少年たちが駆け巡っての“継承”という感じですよね?

OK: そうですね。やはり、汗をかかないと、と思います。伝統工芸も何年もかかって、やっと受け継ぐじゃないですか。「ケサル物語」もそれと同じで、さまざまな過程を経て、受け継がれていくというのが本来の姿なのではないかと思います。

Q: グローバル化が進み、インターネットなどで簡単に情報が手にはいる時代になりましたもんね。

OK: そうです。ネットですぐに情報が手にはいる。今はまだ、撮影した村にネット環境が整っていないので違いますが、将来、彼らが「ケサル物語、知ってる?」となったとき、ネットですぐに調べられるようになる時代がくるかもしれません。しかし、それはなんか違うのではないか、という思いが僕にはあります。

(採録・構成:狩野萌)

インタビュアー:狩野萌
写真撮影:石沢佳奈/ビデオ撮影:鈴木萌由/2015-10-12