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YIDFF 2015 やまがたと映画
子どものころ戦争があった 〜大学生が聴く戦争体験〜
(指導)前田哲 監督インタビュー

戦争という非日常のなかの日常に触れて


Q: 戦時中の「楽しいこと」や「生きがい」が中心に語られることで、その時代に生きたひとりひとりの日常が浮かんできました。その、今の私たちとなんら変わりのない日常と比べて、戦争の異質さ、戦時中に暮らす厳しさが、切実に浮かびあがってくる作品となっていると思います。この作品は、映像学科の現在の2年生61名が、2014年10月から、1年生の授業課題「大学生が聴く戦争体験」として取り組んだものだとお聞きしました。前田先生はどのような想いで、1年生の授業課題に、このテーマのドキュメンタリー映画を選ばれたのでしょうか?

MT: インタビューというのは、ある意味人と向き合う基本だと思います。インタビューを撮ることは、映像の基本的な技術も学べるし、人に対するいろんな礼儀作法、ならびにコミュニケーションを取るときの根本も学べます。それが、奇しくも映画づくりの根本でもあるので、ぜひ授業として取り組みたいと思っていました。映画やドラマ、本などで知っている人はいるだろうけれども、ただ知識を持つだけではなく、そういう場で自分はどんなことを感じるのだろうかと、想像力を持って、体験的に実際に触れるように、生の声を聞いてほしいと思いました。テレビや映画、本からの知識も大事ですが、それだけじゃないものを経験してほしかったんです。そうすれば、ニュースや新聞を読んだとき「戦争」という言葉が目に止まるだろうし、一歩踏みこんで考えるきっかけになると思いました。何よりも、戦争体験は誰かが語り継がなくてはいけないものだと思うので、単なる映像や書物ではなく、実際の生の話を聞いて、見て、自分たちの触れたものを編集して、身体のなかに入れてもらいたかった、というのが大きい意図としてあります。

Q: 「戦時中の楽しかった思い出と生きがい」というテーマにした考えをお聞かせください。

MT: テーマは、生徒が話し合いをして決めました。こんな状況でこんなに大変だったということよりも、そんな状況であっても、何か楽しみがあったんじゃないかということが気になりました。絶望的な状況で希望を見いだすものは何だったのか、そういう何かポジティブな面を聞きたかったのです。それと、戦争という非日常のなかの日常を聞くことで、本当に悲惨で残酷な戦争を、想像できるものに持っていきたかったので、このようなテーマになりました。

Q: 学生たちがインタビューをし、映像を撮っていく過程で出てきた感想のなかで、特に印象に残っているものがありましたら教えてください。

MT: 「今回インタビューをしてみて、どういう状況にあっても笑ったり、泣いたり、お腹が減ったり、そんな気持ちや感覚が、私たちと同じようにあったんだと知りました。当たり前だけれど、同じ人間で、生きていたのだと感じました」という感想がありました。時代が違うだけで、自分もそこにいたかもしれない。もっと言うと世界のどこかでは、戦争のなかにいる人がいます。新聞やニュースで戦争のことに触れ、戦争体験を知識として持つことはあるでしょう。しかし、それを自分のなかで自分のこととして考えるのはとても難しいです。今回のインタビュー体験で、戦争を自分のこととして考える想像力に繋げられる体験をしてもらえたのは嬉しいですね。

(採録・構成:高橋仁菜)

インタビュアー:高橋仁菜、安部綾
写真撮影:管野茉子/ビデオ撮影:宍戸健太/2015-10-06 山形にて