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YIDFF 2017 インターナショナル・コンペティション
機械
ラーフル・ジャイン 監督インタビュー

映画監督は「救世主」ではない


Q: まず、制作背景からお聞きします。インド・ドイツ・フィンランドの3カ国が製作国になっているのはなぜですか?

RJ: 2015年の11月に、自分ひとりで撮った完成途中の作品を、インドのゴア州にあるフィルムバザールに出品しました。そこにいたフィンランド人の審査員が作品を気にいって、プロデューサーになってくれたのです。また、ドイツの共同製作者が、サウンドとカラーリングのポストプロダクションの資金を工面してくれました。それが、インド・ドイツ・フィンランドの3カ国がクレジットされた理由です。

Q: 作品を観ると、画が緻密に構成されている印象を受けます。被写体である工場の労働者たちには、どのようなアプローチをしたのでしょうか?

RJ: 特に被写体に要求したことはないですね。強いて言えば、彼らにカメラを意識させないことですか。撮影に入る2カ月前から、カメラを持たずに彼らとともに過ごすことで、彼らがカメラを意識して緊張しない環境を作りました。

Q: 音も非常に印象的でした。工場の規則的な音は、まるで労働者から生気を奪い取る麻薬のようにも感じられます。音に関して、監督が現場で感じたことはありますか?

RJ: 彼らは、ヘッドフォンで音をブロックしています。しかし、工場から村に帰った労働者に話を聞くと、眠れない、機械の音が耳に付いて離れない、と言っていました。つまり、彼らの耳は完全に破壊されているのだろうと思います。私も3カ月も工場で過ごしていたら、完全に聴力が麻痺して、出血もあり、その後、2年間ほど大きな音の音楽は聴くことができませんでした。

Q: 監督は、作中で工場の経営者のひとりにインタビューを行っています。彼の労働者に対する意見は、インドの工場経営者の多くが持っている意見である、と考えて良いのでしょうか?

RJ: はい。あの地域に1,300軒くらいの工場があります。映画に出てくる工場は、そのなかで一番よいと言われている工場で、あの状態です。他の工場がどんな状況かは、察して然るべきです。

Q: 映画の終盤のシーンで、労働者に囲まれ、お前は自分たちに何をしてくれるのか、と問い詰められるシーンがありました。監督は労働者に対してこの映画で何ができると考えていますか?

RJ: 映画監督は、救世主のように思われているのでしょうか。ジャーナリストの仕事は、ある情報をAからBに伝える仕事だと皆さん知っている。なのに、映画監督は問題があれば、それに対する答えを知っている、と皆さん考えているみたいですね。この映画は、労働者階級のために作られた映画ではないです。彼らは映画を観る余裕さえないですからね。我々、中流・上流階級の人たちが、余裕のある人たちが考えて、それに従って行動を起こして行く。そのための映画だと思います。

Q: 最後に、デビュー作を完成させた感想をお願いしてもよろしいですか?

RJ: 次作を作りたい。でも、そのことについてはナーバスになっています。映画を作るにはお金もかかりますからね。でも、この映画が成功したことによってできた土台をもとに、そのことを考えると夜も眠れなくなるほど、関心を持ってこだわっている、次の課題に切り込む映画を作りたい。次の作品は、ニューデリーの土地、水、空気の汚染の問題に取り組もうと思っています。

(構成:櫻井秀則)

インタビュアー:櫻井秀則、沼沢善一郎/通訳:川口隆夫
写真撮影:薩佐貴博/ビデオ撮影:高橋明日香/2017-10-07