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YIDFF 2017 政治と映画:パレスティナ・レバノン70s−80s
赤軍 ― P.F.L.P.・世界戦争宣言
足立正生 監督インタビュー

「スタンバイせよ」 変わらぬメッセージ


Q: パレスティナで撮影をした1971年当時の状況を振り返っていただけますか?

AM: 当時はパレスティナ人自身が世界的にキャンペーンする、いわゆる情報宣伝活動の基盤が整っていないころでした。欧州などから取材班が来ていましたが、撮影でヤラセをやっている。「撮らないのか?」と言われたが、冗談じゃないと。それで最初はほとんど撮影をせず、難民キャンプで生活し、訓練場や最前線を体験して回りました。その中で何もかもが透けて見えるようなリサーチができたのです。

 前年に「黒い九月事件」(ヨルダン内戦)があり、みんな意気消沈していると思っていたんです。ところが、「ずっと何も持たずに生きつづけてきた。だから祖国に帰るまでやるんです」と女性や子どもまで言うんですよね。「これだ」と思いました。彼らの持っている正義がそこにはあって、それが虐殺を経てもう一度息を吹き返す。そんな姿を如実に見ることができました。

Q: 今回上映される「ミリタント映画」の多くが同時期に制作されています。足立監督の目にはどう映っていましたか?

AM: 再び現地に渡った74年以降、私はPLO(パレスティナ解放機構)、あるいはPLO内左派組織のPFLP(パレスティナ解放人民戦線)の情報宣伝・映画部門をつくっていくという仕方で関わってきました。今回集められた作品の中に、当時観たものもあります。いろんな組織・勢力が、このまま負けられないという思いで情宣活動をしている時代でした。(イスラエルのレバノン侵攻があった)82年まで情宣活動は重要な位置を占めます。その蓄積があり、以降は各勢力がテレビ局を持つまでになります。今回上映される大半は、非常にプリミティブに自分たちの現状とその闘いの姿を、どこに報告できるか分からないけど、とにかく報告しなければという姿勢でつくられたものです。だから時代をよく捉えていると思います。

Q: その後は情報宣言の手法が報道・ジャーナリズムへと変わっていったのですか?

AM: 最初から『赤軍 ― P.F.L.P.・世界戦争宣言』はニュース映画、報道映画だと言っています。パレスティナのゲリラの目から見た日常がテーマでした。この映画では繰り返し「スタンバイせよ」と訴えています。生活の中からもう一度革命の根拠を問い直し、どう主体的に準備することができるか。(全国をバスで行脚する)「上映隊運動」をやったのも、各地での論議の中で、どうスタンバイし合い、力を蓄積し、ネットワークで繋がるかというテーマがあったからです。

Q: 今や誰でも個人で情報を流せる時代となりました。この変化をどう捉えていますか?

AM: それはどんどんやったほうがいい。ただ、メディアに取り込まれる中でマニピュレーションに晒されてしまう。それに耐えるため、自分たちですべてをやってしまうことが重要です。あと、ミリタントの闘争も有効ですが、それだけではないということです。パレスティナは今また歴史の中で最も苦しい状態に置かれています。それを解決するため、カメラ、インターネット、そしてSNSを生かしたやり方が問われています。今の消費文化の中ではBDS(イスラエルボイコット運動)のほうが、ミリタントの活動より強力なわけです。つまり「スタンバイせよ」、もう一度組み立てようということです。今回上映されるのは、忘れてはならないパレスティナ解放闘争の記録であるとともに、“古い”闘い方のアーカイヴなのです。では今、どういう問題の捉え方をして、どうやっていけばいいのか。その問題提起を山形から発信していく必要があると思います。

(構成:沼沢善一郎)

インタビュアー:沼沢善一郎、櫻井秀則
写真撮影:櫻井秀則/ビデオ撮影:加藤孝信/2017-10-01 東京にて