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YIDFF 2019 インターナショナル・コンペティション
十字架
テレサ・アレドンド 監督、カルロス・バスケス・メンデス 監督 インタビュー

独裁の頃の遺産と映像作家として向き合う


Q: この映画の制作のきっかけを教えてください。

テレサ・アレドンド(TA): インターネットで、事件に関するルポルタージュを読んだのですが、そのなかに警官たちの証言がありました。彼らの告白することが非常にショッキングで、それに大きく揺さぶられました。次々と証言が出てきて、それをみんなに知らせることが、映像作家としての責務ではないかと思いました。

カルロス・バスケス・メンデス(CVM): 事件の後に生まれた新しい世代だけでなく、社会全体がそうなんですけど、一般的には昔の事件のことは忘れてしまおうという傾向があります。この事件は、裁判所で裁判が続いていますが、判決がどのように出るのか、出るのか出ないのかさえわからない状況なので、それに対する危惧というのも若い人たちのなかにはあります。事件を忘れないで、記憶に留めておかなければならないのが今の現状だと思います。チリは、歴史の修復運動の、ラテンアメリカの手本となっていて、先駆者的な位置づけにあるのですが、それがうわべだけに終わってしまいがちです。民主化が進んでいるといっても、独裁政権の頃の負の遺産を引きずっていて、それがこの国の重荷になっているのです。

Q: 現地の人々や、遺族の方たちに参加してもらっていましたが、彼らとはどういう距離感を持って撮影に臨みましたか?

CVM: 調査の最初から、事件が起こったふたつの土地に行き、遺族たちに会いました。最初はどういうふうに思われるのか怖かったですけど、非常にいい関係を作ることができました。犠牲者のひとりの息子さんが遺族全体の弁護士をしていて、彼がキーパーソンになってくれました。遺族は主に犠牲者の子どもたちで、女性が多かったのですが、優しい感じで接してくれました。私たちが外国からこの事件に関心を持って、現地までやって来たことにすごく驚いて感激し、オープンに話してくれました。私は、彼らと同等の関係を作ろうと思いました。お互いにとってプラスになるよう、共同作業として制作に取り組みました。映画を作る人が普通の人に取材に行くときに、こちらは撮影隊を引きつれて行くので、どうしてもパワーバランスが傾いてしまいます。そうではなく、お互い知り合っていくなかで、一緒にこの映画の目的を達成するために、同等の関係を作っていくことが大切でした。

Q: 遺族の方たちの、作品への反応はどうでしたか?

TA: 映画は、まずチリの南の方にあるバルディビアというところの映画祭で初上映されました。そのときには、40人の遺族が来てくれて上映に立ち会い、終映後は、みんな舞台に上がって、感謝の言葉を述べてくれました。この映画が世界のフェスティバルを回っていくというのは、この事件の事実を世界の人たちに知ってもらうことを意味するので、遺族たちは映画の成功を喜んでくれています。遺族のひとりは、「これまでの長い年月の間に、こんな事件なんて本当はなかったんだとか、この事件のことは誇張に過ぎないと言う人がたくさんいましたが、事実だったというのをこの映画が示してくれたことに、重要な意義がある」と言ってくれました。

(構成:猪谷美夏)

インタビュアー:田寺冴子、徳永彩乃/通訳:川口隆夫
写真撮影:安部静香/ビデオ撮影:安部静香/2019-10-15