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YIDFF 2019 インターナショナル・コンペティション
理性
アナンド・パトワルダン 監督インタビュー

ガンジーを殺したものに抗っていかなければならない


Q: この作品を観た日本の観客に期待することは?

AP: 作品を国外で上映するときには、インドで起きていることを理解してもらいたいという気持ちもありますが、みなさんの国の状況に関連づけて考えてほしいと思っています。世界中で似たようなことが起きています。日本でも右派勢力が台頭してきていますよね。

Q: フィルター・バブルが存在する中で、そのような現状に無自覚な人も多いです。

AP: この映画そのものが、そのような、人を無知たらしめる傾向への提言とも言えます。右派側が彼らに共鳴しない人々を攻撃するときに、かつてはコミュニストと呼んで侮蔑していました。その呼び名がリベラルとなり、今では知識人となった。知性だけでなく、理性も当然攻撃の対象です。

Q: 理性を持った人は、ある意味で弱い立場にありますよね。

AP: 理性的な主張は人を惹きつけず、敵を生み出すような好戦的なやり方が好まれます。理性のある人々は常に問いを投げかけて議論を戦わせます。それこそが理性なのです。だから、ひとつのスローガンの下には結託しづらい。私に掲げられるテーマがひとつあるとしたら「ガンジーを殺したのは誰か。非暴力を訴えたガンジーのような人を殺したものに抗っていかなければならない」ということです。

Q: 理性が軽んじられる状況で、その重要性を訴える映画を届けるには大変な苦労があることと思います。

AP: 映画を上映するための闘いは何十年も続けています。検閲の憂き目に遭い、裁判に訴えたこともありました。最近では暗殺事件が多発していることもあり、法を味方につけることさえ難しくなっています。とはいえ上映の機会には恵まれていて、実は海賊版も出回っているのです。しかし動画サイトに掲載されているのは不本意です。誰にも観られないよりはいいですが、あくまで私が望むのは、観客と一緒に映画を観て、そのあとにディスカッションを行い、ひとつのコミュニティを作ることですから。

Q: 人々に実際の行動を起こさせるには、どうしたらよいのでしょうか? 映画の中では、皆をひとつにするために歌を唄ったり劇を上演していました。映画を上映して観客と対話をするというのも方法のひとつだと思いますが。

AP: ガンジーやアンベードカルは非常に人気がありました。「解放の神学」のような、宗教にルーツのある理性的な思想は有効な手段だと思います。抵抗に繋がる研究こそなされるべきです。映画で取りあげた人々も、それぞれの活動を通して労働者階級・中流階級の両方に影響力を持ち、そのために殺されました。

Q: 70年代から活動されていて、状況に変化が起きないことに怒りや葛藤があると思うのですが、どのように対峙していますか?

AP: ミクロのレベルでは、人に伝わっていると感じます。「あなたの映画に悪役として取りあげられたが、作品を観て考え方が変わった」と、私のSNSにコメントをしてくれた人がいました。彼らは、敵ではなく被害者なのです。本当の敵というのは、人間の心理を理解して操作している人たちですが、そういう人たちは本当に一握り。多くの人たちは犠牲者だと思っています。

(構成:長塚愛)

インタビュアー:長塚愛、薛佩賢アニー通訳:松下由美
写真撮影:菅原真由/ビデオ撮影:菅原真由/2019-10-12