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YIDFF 2019 アジア千波万波
エクソダス
バフマン・キアロスタミ 監督インタビュー

自国から脱出するアフガニスタン人を見つめる監督の思い


Q: アフガニスタンの出稼ぎ労働者が受ける出国審査の様子は、雑談や相談なども交えた和やかな雰囲気で驚きました。

BK: 通常の出入国管理は、淡々と質問をして、指紋を取って、パスポートを見せるという感じで進むと思いますが、彼らの場合は、ほとんどデータが残されていないのです。身分証を持っていない人も多く、以前データを残していたとしても、映画にも出てきたようにセメントを扱う建設現場の仕事で指紋がなくなってしまう人もいて、指紋照合でデータを見ることができないケースもあります。データ自体も、労働者全体の10分の1程度の人数しか記録されていません。記録や書類がないため、いろいろ話をして聞き出し対象者の情報を得るしか方法がないという状況から、あのような雰囲気になっているのです。

 また映画では、特にユーモアがあり、ウィットに富んだ会話をした人を選んではいますが、アフガニスタン人は全体的に陽気で楽しい人が多いです。

Q: 出国管理のキャンプの撮影許可は問題なくもらえたのでしょうか?

BK: 申請したら撮影許可はもらえました。2017年にアメリカが発動したイラン制裁により、イランの貨幣が暴落し、インフレも起こりました。帰国によって外国人労働者が減少したため、国内でも問題になっていました。管轄の内務省も、出国審査で何が起きているのか、彼らが何を考え、なぜ帰国したいのか知りたかったのではないでしょうか。もうひとつ考えられることは、難民を受け入れる国には国連などから支援があるのですが、イランにはほとんどないので、国際社会に、イランが直面している問題についてアピールしたかったのではないかと思います。

Q: イランが経済危機に陥ってから、出国管理のキャンプを取材しようと思いついたのでしょうか?

BK: 私は経済危機のだいぶ前から、イランにいるアフガニスタン難民を取材しており、写真集も2冊(『Photo Riahi』、『Golshahr』)出版しています。よって、彼らが帰国しようとしている情報も入ってきて、せっかくイランに入国したのになぜなのか、何か自分たちが悪いことをしたのではないか、と個人的に思っていました。彼らは不動産売買の権限や学校教育に制限があり、イラン国民が避けるような危険な仕事に就き、かつ不当な条件で働いていて、イラン国民の中には多少なりとも罪悪感を持った人もいるのではないかと思います。

Q: ボブ・マーリーの曲「エクソダス」を作品に使用されていますが、監督はボブ・マーリーのファンでしょうか?

BK: ボブ・マーリーは元から好きでした。普段聞いている音楽を映画に使えないかと思っていたので、今回音楽とストーリーが合ったのはラッキーでした。

Q: アフガニスタン人が審査時に発言したイランに対する不満について、監督はどう思われましたか?

BK: 実際はもっと酷い思いをしているのに、ビデオカメラが入ったために抑えてしまい、本当のことを言わないアフガニスタン人もいました。彼らの苦しい立場は実感しています。ありのままを映画にすれば、もしかしたらいつか決定権を持つ人が観て「変えましょう」と言ってくれる日が来るかもしれません。フィルムメーカーとして、自分から現状を変えようと偉そうにするつもりはないですが、そのような思いから作品を作っています。

(構成:大下由美)

インタビュアー:大下由美、森崎花/通訳:高田フルーグ
写真撮影:佐藤寛朗/ビデオ撮影:佐藤寛朗/2019-10-13