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YIDFF 2019 ともにある Cinema with Us 2019
この空を越えて
椎木透子 監督インタビュー

次世代につなぐ未来の手紙


Q: ご自身の福島との関わり、この作品を制作することになったきっかけを教えてください。

ST: 震災が起きたことは、ネットを通して知りました。私は普段アメリカ在住で、震災当時もアメリカで暮らしていたんです。震災を日本ではなく遠い場所、アメリカで知ったことに、変な罪悪感や消失感がありました。そこで私は、何かしなければという思いに取り憑かれて、東北を支援する活動を1年間ほど行いました。その活動が2年目に入った時に、福島の子どもたちを対象にしたプロジェクトを行うことになりました。結果的にその活動はちゃんと届けることが出来なかったのですが、諦めきれずに、福島の9〜15歳の子どもたちにアンケートをお願いして、彼らの思いを知ることができました。そのなかで、私をハッとさせた答えがありました。それは、「私たちは震災で大変な思いをしたけど、可哀想ではない。そう受け取らないでほしい」というものでした。

 アンケートには「熱中しているものは何か?」という項目も設けたのですが、ある学校では特に、音楽について書いている生徒が多いことに気がつきました。それが気になって、学校に電話をしたことが、阿部和代先生との出会いで、映画としてまとめることになったはじまりです。

Q: 震災を題材にしているけれど、明るさや音楽への情熱が伝わってくる映画だと感じました。監督自身、そのように意識して映画を作ったのですか?

ST: そういうわけではありません。阿部先生と生徒たちに会うために、アメリカと日本を行き来しはじめた最初の頃は、震災後にすぐ吹奏楽をやるなんて、そんなことが可能なんだろうか? 非難されることはないのか? と私自身が悲観的な質問を先生にぶつけたこともありました。でもそのときに、先生は「確かにそういう声もあるけれども、子どもたちに一番大事なのは、制限はあるけど今までやってきたことをやらせてあげること、そこが大事だから」と言っていました。先生と生徒たちは、辛いことがあっても、音楽を演奏するというひとつの目的があり、信頼感を共有していました。震災が起きて悲しい、辛い、というだけではなく、みんな映像のままの姿で、心から楽しんで演奏していて、私はそれを映像として記録していったのです。

Q: 映画のなかに、生徒たちのインタビューがありますが、どのように関係性を作っていったのですか?

ST: インタビューでカメラを廻す前に、3時間くらい生徒と会話をしました。私のことを知ってもらうために、主に自分の過去の経験を話しました。私は、過去に音楽に支えられた経験があるのですが、その話をしたことが生徒との関係を深め、あのインタビューを撮ることに繋がったと思います。

Q: 今後、この映画をどのように届けたいですか?

ST: 私はこの映画を、ドキュメンタリーというよりも、人生のプロジェクトとして捉えています。阿部先生と生徒たちに出会ったことが、私の人生、そして周りの人々に大きな影響を与えています。実際に映画を今まで観てくださった方たちのなかには、震災や病気を飛び越えて、阿部先生という人と、音楽の力に共感をしてくださった方が多く、そのような伝わり方もあるのか、と私自身が気づかされました。この映画が、次世代の人々に、阿部先生の存在や、音楽の力を伝える「未来への手紙」になってくれればと心から願っています。

(構成:永山桃)

インタビュアー:永山桃、石塚志乃
写真撮影:八木ひろ子/ビデオ撮影:八木ひろ子/2019-10-13