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エドゥアルド・コウチーニョ追悼

死を刻んだ男 ― 20年後

Twenty Years Later: A Man Marked to Die
Cabra Marcado para Morrer

- ブラジル/1984/ポルトガル語/カラー、モノクロ/Blu-ray(原版:35mm)/119分

監督:エドゥアルド・コウチーニョ
助監督:ヴラディミール・カルヴァーリョ
撮影:フェルナンド・ドゥアルテ、エドゥガー・モウラ
編集:エドゥアルド・エスコレル
音楽:ロジェリオ・ロッシーニ
ナレーション:フェフェイラ・グラール、チテ・デ・レモス
エグゼクティブ・プロデューサー:レオン・イルズマン、ゼリット・ヴィアーナ
配給:Mapa Filmes

【作品解説】エドゥアルド・コウチーニョは、1964年に監督したオリジナルの『死を刻んだ男 ― 20年後』で、農民のリーダー、ジョアン・ペドロ・テイシェイラが地主の命により殺害された事件を題材に、実在の農民たちを俳優として起用し、フィクションとして物語を伝える予定であった(ジョアン・ペドロの未亡人であるエリザベッチも出演している)。しかし同年のクーデターによって撮影は中断し、多くの農民だけでなく映画スタッフからも逮捕者が出た。17年後、コウチーニョは現地に戻り、当時の出演者との関係修復に奔走した。そして未完成の劇映画は、脚本や既成概念のない新しい形のドキュメンタリーとなっていく。

 この作品は複合的なモンタージュである。監督自身の一人称的な記憶と淡々としたナレーションに、「客観的な」数字と日付の情報を加えながら、過去の異なる記録素材を結んでいく詩人グラールの語りが挿入される。記録素材のなかには、現像所で見つかったオリジナル版のフッテージやメディアの記録、当時出演した農民たちが81年に語った、60年代の生活、政治の変転がもたらした衝撃に関するインタビューなどが含まれる。

 本作は、ブラジルの社会派ドキュメンタリーの流儀、現代のドキュメンタリー映画の美学、そしてテレビ報道の手法といった異なる方法を取り入れ、60年代から70年代のブラジリアン・シネマと政治の関係を凝縮して表現しており、ブラジルのドキュンタリーにおける分岐点とされる。それまで活発だったブラジリアン・シネマの時代を終わらせ、現代映画的な特徴を携え、創意に富む異質な手法で審美的な表現をもたらすと同時に、国家の政治問題も組み込んでいる。

 84年の『死を刻んだ男 ― 20年後』の公開から約30年を経て制作した『ガリレイアを生き抜いた人々』と『エリザベッチ・テイシェイラの家族』で、コウチーニョはエリザベッチや農民たちを探しに現地へ戻る。この2作品は2014年に亡くなったコウチーニョが最後に編集したドキュメンタリーである。そこに描かれているのは、テイシェイラ家の悲劇的な宿命によって暴かれるブラジルの社会的暴力と、そのキャリアの始まりから終りまで、この家族と関わることになった監督の宿命である。

コンスエロ・リンス(映画研究)



エリザベッチ・テイシェイラの家族

Elizabeth Teixeira's Family
A família de Elizabeth Teixeira

ブラジル/2014/ポルトガル語/カラー/Blu-ray/64分

ガリレイアを生き抜いた人々

Galileia's Survivors
Sobreviventes de Galileia

ブラジル/2014/ポルトガル語/カラー/Blu-ray/27分

監督:エドゥアルド・コウチーニョ
撮影:アウベルト・ベレジア
編集:ジョルダーナ・ベルグ
録音:ヴェレリア・フェーホ
製作会社:VideoFilmes, Instituto Moreira Salles
提供: Instituto Moreira Salles

- エドゥアルド・コウチーニョ

1933年ブラジル・サンパウロ生まれ。法律、演劇、ジャーナリズムを勉強し、ブラジルのシネマ・ノーヴォに関わった映画作家たちと深い交流があったものの、自身での本格的な映画制作は40代後半から始めた。ブラジル映画界に多大な影響を与えただけでなく、ラテンアメリカ・ドキュメンタリーにおいても重要な作家である。監督作品に『死を刻んだ男 ― 20年後』(1984)、『主人 ― コパカバーナのある建物』(2002)、『As Cançoes』(2011)など多数。YIDFF '91インターナショナル・コンペティション審査員を務めた。2014年逝去。