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山形大学主催 東欧ドキュメンタリー映画の現在――冷戦終了後の世界



 山形国際ドキュメンタリー映画祭が誕生した1989年は、「東欧革命」が勃発した年であった。それから四半世紀、山形映画祭ではこれら地域の社会や文化の変化に関する映画が多数応募され、上映されてきた。この点に注目した各分野の研究者らと連携し、学術的な観点から東欧映画の達成を振り返る。

冷戦終了後の世界と「小さな物語」――ポーランド・ドキュメンタリー映画

シベリアのレッスン

The Siberian Lesson

ポーランド/1998/ポーランド語、ロシア語/カラー/ビデオ(原版:16mm)/57分
監督:ウォシェッチ・スタロン


- さらばUSSR

Last Farewell USSR

ウクライナ/1994/ロシア語/カラー/ビデオ(原版:35mm)/60分
監督:アレクサンドル・ロドニャンスキー
YIDFF '95 FIPRESCI(国際批評家連盟)賞、CINEMAだいすき!賞

1990年頃の冷戦終了で、旧ソ連や中東欧諸国の人々は社会体制や価値観の激変を体験した。自己とその環境を支えていた秩序が崩れたとき、人はどのように行動し、何を求めようとするのだろう。国境を越えて新たな絆を再生しようとする人々を、極私的なアプローチでとらえたポーランド映画『シベリアのレッスン』を通してこの問題を考える。普遍的であると信じたイデオロギーの崩壊に直面した旧ソ連の人々の記録『さらばUSSR』を併映。
[講演と討論]講師:小椋彩(東京大学)


ハンガリー・ドキュメンタリー映画と現代史の諸問題

頑固な夢

Stubborn Dreams

ハンガリー/1989/ハンガリー語/カラー/ビデオ(原版:16mm)/93分
監督:ソボリッチ・ベーラ
YIDFF '91ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)


- 私はフォン・ホフレル(ヴェルテル変奏曲)

I am Von Höfler (Variation on Werther)

ハンガリー/2008/英語、ハンガリー語/カラー、モノクロ/ビデオ/160分
監督:フォルガーチ・ペーテル
YIDFF 2009インターナショナル・コンペティションで上映

『私はフォン・ホフレル』はユダヤ人の視点から社会主義時代の体験を描き出しているが、他にも1956年のハンガリー革命で処刑された父の記憶を描いた作品や、強制収容所での体験を回想する作品など、様々な立場の人の社会主義の記憶とイメージがドキュメンタリー映画では描かれている。体制転換後の生活を扱った作品には、環境問題や社会的マイノリティを扱った映画も多くみられる。これらの作品を通じて、ハンガリー現代史の諸問題を考える。
[講演と討論]講師:飯尾唯紀(城西大学)


ドキュメンタリー映画のなかの政治変動――チェコスロヴァキアの場合

- 記憶と夢

Memories and Dreams

オーストラリア/1993/英語/カラー/ビデオ(原版:35mm)/58分
監督:リン=マリー・ミルバーン
YIDFF '95インターナショナル・コンペティションで上映


ペーパーヘッズ

Paper Heads

スロヴァキア/1996/スロヴァキア語、チェコ語/ カラー/ビデオ(原版:35mm)/96分
監督:ドゥシャン・ハナック
YIDFF '97優秀賞

チェコやスロヴァキアのドキュメンタリー映画には、「プラハの春」が挫折していくなかで、ソ連に抵抗する市民を描いた作品や、社会主義時代の監視と抑圧の経験を描き出した作品、あるいは体制転換後の政治を主導したハヴェル大統領の活動を追った作品などがある。これらの作品には、小国ゆえに民族のアイデンティティの理念として「愛」や「真実」といった普遍的理想を掲げることで、かえって民族の輪郭が見えにくくなっているというパラドックスが見られる。
[講演と討論]講師:高橋和(山形大学)