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YIDFF 2003 インターナショナル・コンペティション
炎のジプシーバンド
ラルフ・マルシャレック 監督インタビュー

疾走する音楽集団
――湧き上がる音楽家たちのエネルギー


『炎のジプシーバンド』に描かれるファンファーレ・チョカリーアには、「ジプシー/ロマ音楽の……」という説明はもはやいらないようだ。「ジプシー」や「ロマ」という言葉が惹起する“差異”や“憧れ”は、彼らの演奏の前ではあまり意味をなさないだろう。作品中の彼らはそれほど魅力的である。彼らを客観的に理解しようとするなかれ。真の“理解”は彼らの音楽に身を委ね、体を揺らすところから始まる。

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カメラで捉えたかったもの

 ファンファーレ・チョカリーア(以下チョカリーア)の音楽と、魂から湧き起こる生きる喜び、また彼らの愛と成功を表現したかったのです。彼らは物質以外の豊かさを私達に与えてくれます。チョカリーアは小さな村(ルーマニアのゼチェ・プラジーニ村)で結成され、ワールドツアーをするまでの成功を収めました。村では今は3つのバンドがワールドツアーをするなどの活躍をしています。音楽での成功は夢ではないということをチョカリーアは教えてくれたのです。映画の制作開始から1年半、それ以前からの個人的なビデオ映像も含めると約5年間の記録です。

音の魅力

 ルーマニアでは、南部で弦楽器を中心とした音楽が演奏されています。作中のクレジャニ村はヘルムート(ドイツ人プロデューサー)の妻の出身地で、この地出身のバンドではタラフ・ドゥ・ハイドゥークスがよく知られています。彼らとはチョカリーアと出会う前からの知り合いです。とてもいい人たちで、素晴らしい演奏をするのですよ。彼らの映画を撮りたいと思っていたのですが、89年の革命後すぐに、彼らはベルギーのマネージャーと活動を始めたのでできませんでした。一方東北部のモルダヴィア地方では、ブラスバンドつまり管楽器が中心です。特にチョカリーアの音楽は、高速なリズムと爆発したような音に吸い込まれそうになりますね。彼らのリズムは1分間に200ビートで、まるでパーカッションです。また彼らの音には土の匂いもします。それは土を耕している彼らの日常の音なのです。どの国のどの地であっても、日常の音を演奏できる彼らは、生まれながらの音楽家であり、踊り手であり、俳優でもあるのです。全く知らない世界に投げ出されても、彼ら自身はゆるがない。その理由のひとつは、お金のためにステージに立つのではなく、演奏は彼らにとっては祝祭のようなもので、その場所がたまたまステージだからなのです。どのライブでも必ず観客は踊り出しますよ。ある日本のライブでは、最初はおとなしく着席していたジャケットにネクタイ姿の男性が、1時間後に突然ジャケットを脱ぎ、椅子の上に立ち上がって踊り出しました。ライブ終了時には全員が踊っていましたよ。撮影できなかったのが残念でなりません。

音楽と伝統

 彼らの親の世代は、主に冠婚葬祭で演奏していました。結婚式では1曲20分、途中踊りが入りながら延々と演奏をします。一方チョカリーアの演奏は、ライブ用に短いものが多いという点で違いますが、本質的には同じです。ライブや練習でおなじみのポップスを演奏したりすることはありますよ。例えば修理した楽器の試し吹きやライブのアンコールでは、ABBAの曲を演奏しています。ただ、CD制作で外国のゲストミュージシャンを迎える計画があるので、他の音楽要素との融合もあるかもしれませんね。時代によって音楽に手が加えられていくことで、伝統は永らえていくのだと思います。

(採録・構成:加藤初代)

インタビュアー:黒川通子、加藤初代/通訳:渡辺真理
写真撮影:黒川通子/ビデオ撮影:松永義行/2003-10-11