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YIDFF 2003 アジア千波万波
霧鹿村のリズム
王俊雄(ワン・ジュンション) 監督インタビュー

文化そのものの生命が変化していく


Q: 霧鹿村を撮ることになった、撮影当初のきっかけをおしえてください。

WC: 映画にも出てくる、チェロ奏者のデビット・ダーリンさんと、ブヌン族とのセッションを、レコーディングするという企画があり、プロデューサーの方から、そのドキュメンタリーを撮ってみないか、というお話しがありました。このようなテーマで、ドキュメンタリーを撮るということは、私にとって初めてのことだったのですが、引き受けることにしました。台湾の先住民族であるブヌン族と、現代の台湾人である私との、文化的衝突というものを撮ってみたい、と思ったわけです。そしてそのようなテーマというのは、台湾とその先住民族といったことだけに収まらず、かなり国際的なテーマである、ということに思い至ったのです。

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Q: 撮影が進んでいくにつれ、次第に変化していった心境というのは、どういったものだったのでしょう。

WC: 村に入った直後は、この村の文化も、月日が経てば消えてしまうのだろうと感じていましたが、撮影で村に何度も足を運ぶにつれ、だんだんと私の心境は変化していったのです。文化というものは、それが存在するか否か、といった問題で片付けられるものではない。消える、消えないといったことではない、と感じられてきたのです。というのは、文化というものは、あるものはぱったり消えただとか、まだ残っているだとか、そういうものであれば、残るものというのは博物館入りということで、存在することにしておけばいいのだろうけど、私はそのようには思えなかったのです。彼らの文化を残す、ということは、新しい変化を受け入れていくことなのだと思いました。時代と共に変わっていくべきものであるし、自然に変わっていくものであろうということが、次第に実感されてきたのです。というのは、チェロ奏者のデビット・ダーリンさんが登場するシーンから、画面はかなり変わってくるのです。全体のリズムが、スムーズになってくるのです。そこで生命というものはどういうものなのか、どのように生命を含む文化が変化していくのか、といったことがだんだんと自分に見えてきたのです。

Q: 撮影(スタッフ)の様子や「カチンコ」が頻繁に映りこまれていたのですが。

WC: 2つ理由があります。まずひとつめは観客に対し、今見ている映像はカメラを通して、制作者の目を通して見ている映像である、ということを意識してもらいたかった。あくまでも制作者の目が入っている、そのファインダーを通して見ているにすぎないのだ、ということを伝えたかったのです。2つめは、自然に入ってきてしまった。ナチュラルな雰囲気を、そのまま撮ってみたのです。

Q: 現在作品が完成した今、どういった心境ですか。

WC: この作品を撮ることによって得たことというのは、文化はただ消える、消えないといった風に捉えるものではない、ということが、実感として理解できたということです。文化そのものに生命があって、その生命が変化していくものであるということ。そのことが理解できたのです。

Q: 次回作について。

WC: 今考えているのは、「ペットと人との関係」というテーマです。ペットの死を、自分の肉親の死よりも悲しむという人々がいる。なぜそれほどまでに思いが深いのか。彼らは、人間同士は傷つけ合うが、ペットは裏切らないからだと言う。自分としては、とても興味深いところなのです。ペットを通して、人間の本質に迫ってみたい、と考えています。

(採録・構成:林下沙代)

インタビュアー:林下沙代、和田浩/通訳:樋口裕子
写真撮影:佐藤朱理/ビデオ撮影:園部真実子/2003-10-12