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YIDFF 2005 大歩向前走――台湾「全景」の試み
部落の声
李中旺(リー・チョンワン) 監督インタビュー

“失敗の歴史”の映画から見えたもの


Q: 数ある被災者の中から、ワリスと村の人たちを選んだ理由は何ですか?

LJ: ワリスと彼の奥さんだったアウーは、タイヤル族の中でも突出して先進的で、彼らが自分の部族の復興に向けて何かをすることに、非常に価値があると思いました。都会暮らしの経験もあり、実行力もある彼らが、地震を機に「自分たちタイヤル族の文化を見つめよう」という提案をしたことに、強く興味を持ったわけです。いま台湾では、先住民の文化はどんどん無くなっていますから。

 ところが、ワリスの仮設住宅の中と外では、だいぶ言われていることが違う。彼らは有名でお金が集まるゆえに、悪口や嫉妬が周りの村人たちから出る。私も、はじめは両者の誤解を解こうと思って動いていたのですが、途中からはその生々しさも含めて、人間の本質的な部分を全部撮ろうという視点に変わって行かざるをえなくなりました。

Q: 結果的に、村の暗い部分もたくさん出てきてしまいましたね?

LJ: 中年世代と老年世代に部落が分裂してしまったことが、一番大きな問題でした。たとえば私がワリスの住宅に泊めてもらった後で、朝一番に村人の所へ取材に行くと、「何でこんな朝早くから来られるんだ? ワリスの所にいたんじゃないか?」と言われて喜ばれない。両者のバランスをとるのに相当、腐心しました。逆に私はそれゆえに、両方から直接文句を言われる立場になってしまいましたが。

 完成した作品も、他の「全景」メンバーの作品のように、被災した現地の部落で上映会を開くことを、反対されてしまいました。個人的に見せる分にはまったく問題ないのですが。部落では、表面上は傷が癒えたように見えても、前のぎすぎすした所を見せると、それが古傷を呼び覚ますことになるのではないかという懸念があるのです。これは私にとっても、とても残念なことです。

Q: それでも何とか作品に仕上げましたね。編集する時に心がけたことは?

LJ: 作品を撮った後は非常に落ち込んで、その後の編集に2年もかかってしまいました。はたして、彼らの“失敗の歴史”を再構成する意味があるのか、とても悩みました。しかし、撮ったテープをよく見ると、運動会やカラオケ大会など、彼らが共同体として一緒に取り組んでいたことがたくさんあって、けっして喧嘩の歴史だけではない。そういう記録は極力残すように努めました。そもそもタイヤル族の住民は明るいというか、何事もあまり深刻に受け止めずに生きている所があって、風刺を込めて「あなたはどこに行くの?」という音楽を使ってみたり、「部落の声」という彼らの違法ラジオ局のDJを入れたりして、明るい部分を取り入れることを色々心掛けました。とにかく、単なる暗い話にはしたくなかった。彼らにとっては失敗の歴史でも、それは次の世代には、再生の歴史の記録になるかもしれないですからね。

(採録・構成:佐藤寛朗)

インタビュアー:佐藤寛朗/通訳:吉井孝史
写真撮影:和田光子/ビデオ撮影:山口佳秀/ 2005-10-06 東京にて