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YIDFF 2009 アジア千波万波
海上の三日月
ユリ・アンダリ 監督インタビュー

変わりゆくもの、変わらないもの


Q: ブンギン島の人々が、かつての伝統的な暮らしから離れていく様子を撮影するにあたり、なぜマッカディア家の人々を取り上げたのですか? また、彼らとの出会いについて教えてください。

YA: 私がまだ高校2年生の時、学校の壁新聞を作るため、ブンギン島にインタビューに行きました。その時マッカディア家のお父さんから、バジョ族に伝わる旗を見せてもらったのです。当時は村に宿泊施設が無かったため、彼の家に泊めてもらいました。これが、私とマッカディア家の人々の出会いです。

 10年後、今回の映画を作るため再びこの島を訪れた時、ずいぶんと島が変わっていることに驚かされました。たとえば、当時は本島と島の行き来が船のみだったのに、今では橋が架かり、島民がオートバイで行き来できるようになっていました。しかし、長い撮影の中で、変化が起こっているのは島だけではなかったのです。お世話になったマッカディア家の人々にも様々な変化が起こり、印象的でした。長男は村長選挙に出馬し、新しい島の政治に向けて動き出しており、次男は昔ながらの漁を行いながらも、経済的にはとても困っていました。また三男のアリフは将来、漁師になろうか、それとも学校で学んできたスキルを活かして、新しい商売をはじめようか迷っていました。この兄弟間の対照がおもしろいと思いました。以前、テレビでジャーナリスティックなドキュメンタリー番組は作っていましたが、今回の作品では、家族の一部のようになって、もっとパーソナルな目線で見てみたい、そう思ったのです。

Q: 作品タイトル『海上の三日月』は、どのような意図でつけられたのですか?

YA: もともとブンギンというのは、バジョの人たちの言葉で、さんご礁の上に白い砂が溜まってできた島のことを指します。この島は、上から見ると三日月の形をしており、海の只中にあるので、このようなタイトルをつけました。

 また、バジョの人たちは今、時代に揺れ動いています。私は、伝統は守らなければ埋もれてしまうものだと考えています。ブンギン島の人たちの家も、いつかは海に沈んでしまうかもしれません。伝統的な生活が薄れていっている事実と、それが実際に起こっている島の成り立ちをかけて、このタイトルをつけました。

Q: 映画の中に、お父さんが息子にお金を渡す場面や、村長選挙の集会でお金に関する話題が出ている場面がありました。これらのシーンから、ブンギン島にもお金至上主義というような流れがあるのかと気になったのですが?

YA: お金至上主義というのは、ブンギン島にもあります。私が島を訪れた1997年、2003年、2007年でも、はっきりとした違いが出ています。1997年の時は、モーターつきの船でしか島に行けなかったのですが、「お金なんていらないよ、せっかく俺たちの生活を撮りにきてくれた人なんだから」と、家族のような感覚で船に乗せてくれました。それが、2003年に訪れた時は、お金を渡したほうが、より便宜を図ってくれるようになっていました。さらに撮影をした2007年は、村長選挙でも分かるように、お金至上主義が島に根づいてしまっていました。

 マッカディア家の父親が息子のためにお金を一所懸命集めているのは、息子への愛情からくるものでした。なぜ最初にそのシーンを入れたかというと、父親の愛情と、村長選挙に表れていた村民の欲を、対照させて見てもらいたかったからです。

(採録・構成:田中美海)

インタビュアー:田中美海、田中可也子/通訳:深瀬千絵
写真撮影:広谷基子/ビデオ撮影:工藤瑠美子/2009-10-09