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YIDFF 2009 アジア千波万波
麗江で鷹を放つ
鍾錦棠(チョン・カムトン) 監督インタビュー

伝統文化を残すということ


Q: 監督は、いつ頃から雲南省昆明に通っていたのでしょうか? また、鷹狩りに興味を持ったきっかけと、映画にしようと思った理由を教えてください。

CK: 96年から雲南に足を運ぶようになりました。私の本職はフリーランスのカメラマンで、2001年に鷹狩りの写真を撮り、作品として雑誌に載せましたが、「鷹狩り」というのは、すごく動きが大きくて、そこがおもしろいので、ドキュメンタリーとして残しておきたい、という思いが湧き上がってきました。

 私はここ数年、中国がものすごい変化を遂げていく中で、いろんな伝統的なものが失われていくことを、とても残念に思っています。だから鷹狩りの風習だけではなく、他の様々な伝統文化に関してもなんとか残っていってほしいのです。写真も「鷹狩り」だけではなく、他のものもたくさん撮ってきました。そのなかで、毎年、麗江に行くようになって、この映画で紹介した3家族と親しくなっていきました。そして、写真だけでなく、ドキュメンタリー映画にして、親しくなった彼らとの関係を残しておきたいと思うようになったんです。

Q: 伝統文化を引き継いでいくことの重要性について、どう考えていますか?

CK: 伝統的なものを守ろうとしても、ひとりの力はとても弱いものです。もともと私は客家人(はっかじん)で、客家人のネットワークは世界に広がっています。私も家では両親と客家語で話していましたが、私の子どもは話せません。私たちの世代で客家語はなくなってしまうでしょう。これは断絶ですよね。まるで地理的な断層のように、すごく大きな文化の断層というのがここでできてしまう。だからわたしは、伝統的なものを残しておくということを、自分の責任のように感じるんです。そして、鷹狩りについても、伝統が途絶えてしまうことが、すごく心配でした。

Q: 今のナシ族の若者は、どのくらい鷹狩りに関心を持っているのでしょうか?

CK: 問題はそこなのです。今「腕に鷹を乗せる」というのは、流行になっています。でも、ひとつのファッションにすぎないのです。今回、私が主人公として選んだ楊麗瑋(ヤン・リーウェイ)という若者は、発信器をうまくつけることができますが、もっと若い人はそういうこともできません。ただ鷹を買ってきて、自分の腕に乗せて、人に見せているだけなんです。鷹狩りをしません。

 昔は、鷹狩りを行えるのはお金がある人だけでした。鷹狩りはどこにでもあるものではなくて、ナシ族は独特な民族だと思います。ものすごくおもしろい伝統文化ではありますが、これがどのくらい残っていくかはわかりません。鷹狩りに関しての資料というのはほとんどありません。私は親しくなったナシ族の人たちからいろいろ情報を収集し、勉強しました。特に楊麗瑋からはいろいろ教えてもらい、私は雌の鷹の区別ができるようになりました。こういう、いろいろな人に出会って教えてもらったり、知識を蓄えていくというのは、すごくおもしろい作業です。

 いつも、麗江に行くたびに聞かれます。「ドキュメンタリーはできたの?」と。彼らは、ずいぶん長いことかけて撮ってるなと思っているでしょう。私には、彼らにお返しする方法は他にないので、感謝の気持ちとして、この作品を彼らに見せたいと思っています。

(採録・構成:木室志穂)

インタビュアー:木室志穂、解明明/通訳:樋口裕子
写真撮影:鈴木大樹/ビデオ撮影:伊藤歩/2009-10-12