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YIDFF 2009 やまがたと映画
思春期亡霊
鏡慶吾 監督インタビュー

前進することで過去にできた


Q: 自分の内面をさらけ出すことには勇気が要ると思うのですが、この作品を撮ろうと思ったきっかけは何でしょうか? また、ご自身の恋愛を作品として撮ることに抵抗は無かったのですか?

KK: 今回の作品を作る前にも、大学の4年間、同じ失恋の作品を作ってきました。自分の恋愛を撮ることには、すごく抵抗がありましたね。人に言うことではないし、とても恥ずかしいと思いました。だけど成就しなかった恋愛で、気持ちをきちんと終わりにできないままだったので、作品にすることで完結させて、すっきりしようと思ったんです。

 それから、作品のおもしろさは、作者の強い気持ちがどれだけ画面に表れているかだと考えました。ですから当時、自分の中で一番強く思っていたことである失恋についての作品を、大学1年生の終わり頃から撮り始めたんです。

Q: 作品のタイトルでもある、幼なじみを好きだった“思春期亡霊”は、最終的には消えたと考えてよろしいのですか?

KK: いえ、僕は“思春期亡霊”は消えないのだと思いました。過去は消えずに、何かが残ったとしても、みんなそれを普段は思い返さないで、前進しているのだと思います。この作品の前も同じ失恋の作品を作ってきました。そのたびに、これで失恋のことを忘れようと思っても、忘れられない。僕みたいな人は、ちゃんと恋愛しないと、忘れられずにいつまでもグダグダやっている。この作品で、やっとそこから脱却しました。前進することで、昔の恋愛をやっと過去にできたということですね。

Q:『100万回生きたねこ』の話をしているシーンが印象的でしたが、どのような意図で入れたのでしょうか?

KK: 今の彼女の家にいた時、『100万回生きたねこ』の話になって、「ああ、これを撮らないと!」と思いました。『100万回生きたねこ』の絵本を知ったのが高校生の時でした。ちょうど失恋して暗くなっている時に読んで感動したんです。そういう思い入れがあって作品に取り入れました。もうひとつは、自分を100万回生きたねこに、彼女を白いねこになぞらえて、なんとか作品を盛り上げようとしたんです。

 僕の作品はドキュメンタリーだと思っているんですが、こういうふうにしようとか、こういうことを言ってもらおうとか、演出もかなりしています。そもそもドキュメンタリーに定義はないので、演出を含めて僕自身を形作れればいいと思います。

Q: 撮影中に苦労したところを教えてください。

KK: 多少意図的に演出もしているんですけど、基本的には日常生活の流れがあったとしたら、撮影のための演出はせずに、自然にその流れで撮っていきました。それから、恋人同士の間に第三者がいたら、恥ずかしくてふたりでいる時のような会話ができなくなって、リアルな画が撮れないと思ったんです。なので、間に誰も入れないで撮影しました。三脚で据え置きの撮影が多かったですね。日常生活の映像で飽きさせないように見せる構成は、なかなか難しかったです。

Q: 今後どのような作品を作りたいですか?

KK: 恋愛の作品というのは『思春期亡霊』で完結したと思っているんで、今後は違ったテーマで撮っていきたいですね。

(採録・構成:千田浩子)

インタビュアー:千田浩子
写真撮影:伊藤歩/ビデオ撮影:伊藤歩/2009-12-21 山形にて