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YIDFF 2017 特別招待作品
標的の島  かじかたか
三上智恵 監督インタビュー

沖縄を、日本を、かじかたかにしてはならない


Q: 映画を観て、もっと沖縄や日本のことについて自分で考え真摯に向き合わなければならないと感じました。タイトルにもなっている印象的な言葉、「かじかたか」とはどのような意味なのでしょうか?

MC: 「風かたか」は風よけという意味です。ここでは「親が子どものために」「沖縄が日本のために」「日本がアメリカのために」の、3つの意味をかけて「風かたか」を使っています。冒頭の集会のシーンで流れる古謝こじゃ美佐子さんの「童神わらびがみ」では、子どもに風かたかを作り、一人前になるまでは育てあげたいという親の気持ちが歌い上げられています。この子守歌を米兵に暴行されて亡くなった少女のために歌うことの意味を考えると、涙が止まらなくなってしまうので、あの場で耳をふさいでいました。親が子どもの風よけになろうとするように、今立ち上がっている沖縄の人々も、次の世代のための風かたかになろうと思って行動しています。しかし、本土の人は沖縄を風かたかにしようとしている。そして既に、日本列島自体がアメリカの風かたかになっている。どれだけの人がそのことに気がついているのでしょうか。現実から目を背けているのでしょうか。

Q: 三上監督が以前に制作した『標的の村』『戦場いくさばとぅどぅ』と比較して、沖縄の人々の生活を多角的に捉え、抗議運動そのものだけでなく、歌や踊りなど沖縄固有の文化に注目しているように感じました。その理由はなんですか?

MC: もともと民俗学者なので、離島の文化が好きでした。祭りのシーンを撮ってみて、そこに住まう人々の持っている力の強さを感じました。本島の辺野古や高江では、もう何十年も住民が座り込みを続けており、疲弊しきっています。しかし、宮古島や石垣島はまだ同じほどは傷んでいません。だから人々は、まだまだやれることはあるし、追い詰められていないと思っているのです。そんなとき、石垣の山里節子さんが石垣を代表する叙情歌のトゥバラーマを歌ってくれました。「戦争を経験したから、再び軍隊の島にされるのが嫌なの」と節子さんは歌います。石垣は特殊な里言葉を使用するので、歌詞の意味は半分しか理解できませんが、涙があふれてきました。トゥバラーマのメロディは決まっていますが、歌詞はアドリブです。節子さんが78年間の人生で聞いてきた、いろんな人のトゥバラーマの蓄積が、彼女の歌うトゥバラーマを構成しています。たくさんの言葉よりも気持ちが伝わってくると思いませんか。節子さんは「わたしたちの島には、物もお金もありません。でも、歌と踊りはあります。それでおなかを満たし、心を洗ってきたのです。だから、自衛隊が来るという危機も、歌や踊りでなんとか乗り越えていけるのではないかという気持ちを隠し持っています」と語ってくれました。それがどういうことなのかを、この映画が映しだす沖縄の文化や伝統を通して、理解していただけたらと思います。

(構成:吉岡結希)

インタビュアー:吉岡結希、中根若恵
写真撮影:薩佐貴博/ビデオ撮影:野村征宏/2017-10-11