English
YIDFF 2019 アジア千波万波
アナトリア・トリップ
デニズ・トルトゥム 監督、ジャン・エスキナジ 監督 インタビュー

サイケロックのスピリットを呼び戻す


Q: おふたりは、以前からこのバンドのことを知っていたのですか?

デニズ・トルトゥム(DT): 僕は、映画に出てくるドレッドヘアーの男性のことを、10代の頃から知っていました。一緒にバンドをやっていたんです。彼が、トルコ中の街でライブをするというのを聞いて、素晴らしいと思って、一緒に行きたい、撮影したいとお願いしました。その前に、70年代のアナトリアのサイケロックを調べていて、映画に出てくるロン毛のおじさんについてリサーチしていました。彼はトルコのミュージシャンで、アナトリア中でコンサートをしていて、実際に見に行った人の話では、もう素晴らしかったそうです。彼をめがけてみんなが殺到し、女性が大騒ぎしてキャーキャー言っていたというのですが、その映像はほとんど残っていなかったんです。なので、同じようなツアーをすれば、70年代のサイケロックと同じような状況を作ることになって、面白そうだなと思いました。昔のスピリットを呼び戻すみたいな、そういうつもりでこの映画を作りました。また、2014年の夏の1カ月間のトルコを記録したいというのもありました。

Q: 演奏シーンはミュージックビデオのようでしたが、こだわったところはありますか?

ジャン・エスキナジ(CE): 演奏シーンは、実はすごく考えました。即興なので、1曲10分から15分あったのですが、どういうふうに彼らが演奏を始めて、進展していって、どれだけ長いかっていうのを見せたかったというのがあります。短いカットもあったのですが、短くしちゃうとどんな音楽かわからなくなってしまうんです。この音楽はつまらないと言う方々が映画のなかに出てきますが、どうして彼らがそう言うのかというのも見せたかったのです。

Q: 最後のカタツムリのシーンが印象的ですが、特別な意味はありますか?

CE: 映画にもありますが、トルコには「イスラム教の人たちが住んでいる界隈でカタツムリを売る」ということわざがあります。イスラム教の人たちはカタツムリを食べないから、そんなとこで売っても仕方がないという意味です。誰かがインタビューで、バンドについてこのことわざを言っていたのですが、そのインタビューを見た瞬間に、これは面白い、カタツムリを使おうと思いました。カタツムリの渦巻の模様は、サイケなロッカーのモチーフにもなっているので、その模様を見せたかったというのもありますし、カタツムリがゆっくり動くというのも見せたかったのです。映画全体をまとめるイメージとして、ちょっとしたアイロニーもありますし、冗談も入っているということで、それ以上の深い意味はありません。

Q: これまでも、共同監督で映画を撮っていらっしゃるのですか?

DT: 共同で監督するのは初めてです。私とジャンは10年来の友人で、映画に関する見方は似ているなと思っていました。最初に今回の映画のことについてジャンに話したら、馬鹿げたアイディアだととりあってくれませんでした。なので、撮影には僕しか行ってないんです。撮影から帰ってきて、3、4カ月は映像も見たくないという感じでした。編集を始めたら、自分ひとりでは編集できないと思いました。その時点で、ジャンに編集に加わってもらいました。数カ月して、これはもう監督と編集というよりも、監督と監督という関係だと思いはじめて、そこからはふたりが監督ということで仕事を進めました。

(構成:徳永彩乃、猪谷美夏)

インタビュアー:徳永彩乃、田寺冴子/通訳:中沢志乃
写真撮影:森崎花/ビデオ撮影:森崎花/2019-10-14