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YIDFF 2019 日本プログラム
王国(あるいはその家について)
草野なつか 監督インタビュー

身体への挑戦と 『王国』に込められたもの


Q: 冒頭で女性が幼馴染の家族の子どもを殺してしまった、それはどうしてなのか? という謎が提示されます。事件を起こしてしまった女性の謎を追っていく物語と思いきや、俳優たちが繰り返しリハーサルを重ね、役を獲得する姿に焦点を当てる本作。着想点は何でしょうか?

KN: 本作は愛知県の助成金で制作した作品で、テーマが“身体”でした。私にとって興味のある“身体”を考えたときに、前作の『螺旋銀河』の時に俳優の演出をやりきれなかったという思いが私自身の中に残っていたこともあり、俳優に向き合うという意味でも、俳優が役を獲得する過程に焦点を当てたいと思いました。そして、子どものいる家を舞台にしたのは、私自身の経験が基になっています。それは、友人の夫婦とその子ども(当時1歳)の一軒家に遊びに行った時のことです。私は、小さい子どもを持つ家が、見えない膜で覆われているような、すごく特殊な空間であることに衝撃を受けました。そこから子どものいる家を題材にした映画が作りたいなと思ったのです。

Q: 俳優の身体の変化を捉えることは非常に難しく、曖昧な部分が多いと思います。そういった意味で監督としての挑戦や、難しさはありましたか? また、撮影にあたって工夫したことはありますか?

KN: 私にとっても、俳優の役の獲得を映画で捉えるということは初めての試みだったので、撮影中は試行錯誤しながら進めていきました。たとえば、この作品は元々、フィクションとして完成された脚本があり、その67シーンを撮影の1週間で俳優とリハーサルをするつもりでした。

 しかし、撮影初日にこの映画で目指したいものはそういうものではないと気がつき、相談の結果、67シーンのうちの物語が大きく動くシーン、3人の関係性が成立しているシーンを取りあげて、それを繰り返しやっていこうということになりました。そして撮影中は、私はカメラの映像と対峙するのではなく、ずっと俳優の演技と向き合っていました。私にとって俳優が役を獲得するということは“役の声を獲得すること”だと考えているので、変化としてそこに注目をしていました。

 リハーサルを繰り返し行う中で一番難しかったことは、繰り返しのリハーサルの中で、俳優自身の感情の変化だったり周囲の環境だったり、いろいろなことが影響して、俳優が一度得たものを失ったり、得たりするところです。なので、いつカメラを廻し始めるのか、止めるのかが一番重要で、その見極めが撮影の肝だったと感じています。

Q: タイトルの王国は、何を表わしていますか? また、映画に込めたテーマはありますか?

KN: 2014年に近代美術館で見た、写真家・奈良原一高の写真展「王国」が発想の原点にあります。北海道の男性の修道院と和歌山県の婦人刑務所が舞台の写真で、望んで修道院という閉ざされた空間に入った人と、刑務所に入らざるを得なかった人と、一見対照的ですが、どちらにも共通点があり、映されているものはかなり近いのではないかと感じたのです。それは映画にも反映されていると思います。

 そして、あまり話をしたことがないことなのですが、実はこの作品は実際に起きた事件がモデルになっています。普段から、私は大きな枠組みの中からはみ出てしまうものを理解しようとしなければいけないという、社会的な圧力のようなものが息苦しいなと感じていて、でも、その事件のように全然理解が及ばないようなことも、現実には沢山あると思います。なので、理解できないことは理解できないし、理由を求めなくてもいいのではないか? ということが、私の中でのこの作品の裏のテーマになっています。更に次回作では、物語としてこれについて深く掘りさげたいとも考えています。

(構成:永山桃)

インタビュアー:永山桃、森崎花
写真撮影:佐藤寛朗/ビデオ撮影:加藤孝信/2019-10-04 東京にて