english
2000-01-06 | 第6回映画祭報告

 1999年10月19日から25日の7日間、山形市にて第6回目の山形国際ドキュメンタリー映画祭が開催されました。19日夜の開会式から始まった映画祭は、ボランティアやスタッフに支えられ、国内外より多くの観客やゲストをおむかえして、盛況のうちに幕を閉じました。
 期間中は、「インターナショナル・コンペティション」をはじめとして、8会場で10以上のプログラムが組まれ、合計188作品が上映されました。中でも、現在のドキュメンタリーを語るうえで無視できない存在となったビデオドキュメンタリーは毎回増加の傾向にあり、今回は全上映作品の4割以上を占めています。
 今号では受賞作品や審査員のコメント、上映作品の追加・変更、参加ゲストの変更、上映作品数、入場者数などをご報告します。
 次回の開催は2001年です。21世紀の幕開けにふさわしいドキュメンタリーの映画祭を目指して、いろいろな可能性を模索していきたいと思います。これからもご支援ご協力のほどよろしくお願いいたします。


【山形国際ドキュメンタリー映画祭'99受賞作品】

◆インターナショナル・コンペティション◆
審査員:ジャン=ルイ・コモリ、アモス・ギタイ、羽田澄子、スタンリー・クワン、ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス

◇大賞(ロバート&フランシス・フラハティ賞)
『不在の心象』 監督 へルマン・クラル

審査員団はこの監督のアプローチにおける独創性と勇気を称えたいと思います。彼は偉大なる率直さを持って両親に向かい合い、その感情、そのエモーション、その複雑さを気づかせてくれます。それを映画に固有の手法によって作品に昇華することで、実人生においては離れ離れになってしまったものを、フィルムの中に再び結び合わせることができたのです。

◇最優秀賞 (山形市長賞)
『メイン州ベルファスト』  監督 フレデリック・ワイズマン

この特別賞によって審査員団はフレデリック・ワイズマンの偉業に、とりわけこの作品においてアメリカの町の肖像をその住人たちの日々の暮らしを通 して描き出すというこの映画作家の手腕に、心からの敬意を表したいと思います。この人々の体験、その仕事、彼らが日々取り組んでいる事柄は、真に偉大なる感受性と、そこに耳を傾け観察する鋭い感覚で描かれています。こうした美点こそ、この偉大なドキュメンタリー作家の作品を特徴付けるものなのです。


◇審査員特別賞
『アンダーグラウンド・オーケストラ』 監督 エディ・ホニグマン

音楽という美しくも繊細な作品を貫く糸を追うことで、監督は私達の住む町の隠れた一面 を私達に発見させてくれます。それは祖国を離れた人々、亡命者たち、不法移民たちの世界であり、それをこの映画は勇気と優しさを持って見せていきます。彼らの困難な運命を通 じて、私達はこの世紀末における世界の現状を学ぶことになります。


◇優秀賞
『掃いて、飲み干せ』 監督 ゲルト・クロスケ

『ハッピー・バースデー、Mr.モグラビ』 監督 アヴィ・モグラビ


◆アジア千波万波◆
審査員:中野理惠、林旭東

◇小川紳介賞
『ハイウェイで泳ぐ』 監督 呉耀光(ウー・ヤオドン)

作者の提起した問題はプライベートでありながら、私たち自身の問題として提示されています。<いかにして自分と向き合い、どのようにして他人と関わりあうか>。人と人との関係が絶えず変化に晒されている今日のアジアにおいて、これは特に切迫したテーマです。

◇奨励賞
『綿打ち職人』 監督 朱伝明(ジュー・チュアンミン)

主人公の男性を通して現在の中国のひとつの側面が、よく描かれています。主人公のこの率直さを引き出すまでの関係をつくりあげた監督の姿勢を評価したいと思います。

『老人』 監督 楊天乙(ヤン・ティエンイー)

現在の中国をつくり上げた自負をもった高齢者が、まったく子どもたちの世代から無視されるという事態に直面 し、戸惑い嘆きながら生を終えていく様が、自然の変化のひとつのように静かに描かれており、撮影者と対象者の関係がヒューマンです。

◇特別賞
『メイド・イン・フィリピン』 監督 ディツィ・カロリノ、サダナ・ブクサニ

『あんにょんキムチ』 監督 松江哲明


◆FIPRESCI(国際映画批評家連盟賞)◆
審査員:マルセル・マルタン、ネルソン・ホイネフ、田中千世子

◇FIPRESCI賞
『イラン式離婚狂想曲』 監督 キム・ロンジノット、ジバ・ミル=ホセイニ

女性の幸せと威厳を叶えるための努力を上手に描いたキム・ロンジノットとジバ・ミル=ホセイニのこの作品に対してFIPRESCI賞を授与します。

◇特別賞
『新しい神様』 監督 土屋 豊

現代日本社会の観念的話題と価値観を革命的に描いたこの作品に特別賞を授与します。


◆NETPAC(アジア映画促進会議)◆
審査員:ニック・ディオカンポ、ジミー・チョイ、荒木啓子

◇NETPAC賞
『白〜THE WHITE〜』 監督 平野勝之

夢と野望を達成させるため、強じんな意志と決意をもって、勇壮で私的な旅に出た映画作家。ユーモアの心を忘れず、パーソナルな闘いにドキュメンタリーの力を利用することに専心する映画づくりを評価します。


◇特別賞
『あんにょんキムチ』 監督 松江哲明

自己アイデンティティの確立をめぐる映画を作った新人監督の新鮮な視点を評価します。アジアの文化間に対話をつくり出そうとする真摯な努力と誠意にあふれた作品です。

『I Love (080)』 監督 楊力州(ヤン・リージョウ)

社会と家族の両方からかかる圧力に屈し、正気を失っていくひとりの命を描写したこの作品では、いかに滅入るような人生であろうと表現しようとする作家個人の信念が、個人と社会の関係を理解させてくれます。


◆市民賞◆
市民ボランティアグループの主催で観客の投票により決定
(インターナショナル・コンペティション14作品が対象)

『ライオンのなかで暮らして』 監督 シグヴェ・エンドレセン



【上映作品数・入場者数 】
 各プログラム上映作品数・入場者数内訳

                       作品(入場者)
インターナショナル・コンペティションー……14(6,886)
アジア千波万波……48 内ビデオ35(2,940)

[アジア千波万波スペシャル・プログラム]
つくる・見せる・変える〜日本・韓国のビデオアクティビズム
………………………17 内ビデオ17(711)
事例討議:全景(台湾)&CINEMA塾(日本)映画運動の試み
………………………9 内ビデオ7(721)
審査員作品……5(759)
風〜ヨリス・イヴェンス特集……31(2,528)
ワールド・スペシャル・プログラム……23 内ビデオ14(1,993)
柳澤壽男特集……17(815)
小川プロダクション特集……4(254)
日本パノラマ……8 内ビデオ5(604)
開会式(『映画作りとむらへの道』上映)……1(562)
表彰式・閉会式……(503)

[協賛・関連上映]
YIDFFネットワーク企画特別上映……5 内ビデオ4(100)
優秀映画鑑賞会……6(1,224)

合計           188 内ビデオ82(20,600)


【上映作品の追加・変更】
YIDFFネットワーク企画特別上映・番外編として平野勝之監督作品『由美香』『流れ者図鑑』を追加上映。ワールド・スペシャル・プログラム上映作品『プロジェクト19』(セルゲイ・ルキアンチコフ監督)はフィルムではなくビデオで上映。風〜ヨリス・イヴェンス特集『旅行日記』は都合により上映できなくなりました。

【参加ゲスト】
ゲスト数 139人(うち海外91人)
*ゲストの中で、参加できなかったゲストがいました。
インターナショナル・コンペティション:張元(『瘋狂英語』監督)、キム・ロンジノット(『イラン式離婚狂想曲』共同監督)、シグヴェ・エンドレセン(『ライオンのなかで暮らして』監督)
アジア千波万波:アヌラーグ・シン(『友よ、いかに生き延びよう』共同監督)、ニーラジ・スージー(『秋のお話』プロデューサー)、ラージーウ・マルロートラー(『外部の季節』プロデューサー)、ロン・プユンダトゥ(『ジャカルタ・ストックショットNo. 7』監督)、アオレイオス・ソリト(『部族に帰れ』出演者)、余俊賢(シャオ・ビン)(『美麗少年』出演者)、楊天乙(ヤン・ティエンイー)(『老人』監督)、朱伝明(ジュー・チュアンミン)(『綿打ち職人』監督)
ワールド・スペシャル・プログラム:ピーター・ウィントニック(『シネマ・ヴェリテ』監督)

◆◆訃報◆◆
 アメリカの映画作家ロバート・クレイマー氏が11月10日に髄膜炎のためフランスにて急逝されました。クレイマー氏は60年代後半にベトナム反戦運動のなかで、映像による左翼前衛闘争集団“ニューズリール”の結成メンバーとなり、アメリカを代表する左翼インディペンデント・フィルムメーカーとして、現代社会の本質を政治的かつ批判的に見続け作品を発表してきました。80年以降は拠点をフランスに移しますが、その姿勢は変わりませんでした。
 山形映画祭には、'89年にコンペ作品『ルート1』の監督として、'97年にはコンペ審査員長としてご参加いただきました。   
 映画祭'97で問題になった特別招待作品『マザー・ダオ』や自作『電気の幽霊』(東京国際映画祭で上映)の検閲に対して抗議を行い、表現の自由について疑問を投げかけました。
 氏の本映画祭だけではなく映画界へもたらした功績は多大で、この訃報は大変残念です。心からご冥福をお祈り申し上げます。


[お問い合わせ]
山形国際ドキュメンタリー映画祭実行委員会事務局
phone: 023-666-4480
e-mail: info@yidff.jp