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インターナショナル・コンペティション

ウイ・ノン

Oui Non

- アメリカ、フランス、イタリア/2002/フランス語、英語/カラー/ビデオ/115分

監督、脚本、撮影、編集、録音、グラフィック、音楽操作、製作:ジョン・ジョスト
キャスト:エレーネ・フィリエール、ジェイムズ・ティエルレ
ナレーター:リタ
提供:ジョン・ジョスト
Jon Jost
331 Lower Hadlock Road, Port Hadlock, Washington 98339 USA
Phone: 1-773-296-4407 E-mail: clarandjon@msn.com

写真家ユジューヌ・アジェが撮った20世紀初頭のパリ。画は現代のパリに移動し、その風景の中に若い男女の恋物語が進行する。『ロンドンスケッチ』や『シックス・イージー・ピーセス』で台詞や物語性を排することによってデジタルビデオの可能性に新境地を切り開いてきたジョン・ジョスト監督。恋する人間の息吹きを介在させることによって彼の映画はこれまでにない官能性を獲得し、ここにひとつの到達点を示した。



【監督のことば】『ウイ・ノン』では2つのフィクションが同時進行する――ありふれたボーイ・ミーツ・ガールの恋物語と、フィクションという物語形式に対する批判、それらが交互に展開して“ドキュメンタリー”を形づくる。特定の形式論にのっとって事象をあぶり出そうとするフィクションの虚偽性は、現実の世界とは相容れないものだ。人生とは無秩序のかたまりであり、唯一確かなのは死をもって物語が完結すること。フィクションならそれをきちんと整理してくれる。フィクションを批評する言葉は、そのままドキュメンタリーにもはね返ってくる。ドキュメンタリーの形式をとれば、“事実”をあばくシステムという見せかけを装いながら、作り手は頭の中で“現実”を並べかえ、組み立てることで、生得的に虚偽に陥らざるをえない。

 『ウイ・ノン』ではそういった考えを弄びつつ、実は逆に弄ばれつつ、その合間に映画、文学、哲学、パリジャンたちのロマンスの神話といった、様々なパリの風物に捧げるオマージュもちりばめてみた。実際は悲劇だけどロマンティック・コメディ、真実だけど架空の物語、これはそんな作品だ。

 『ウイ・ノン』は、我々がいかにして現実をフィクションにすり替えるか、いかにしてフィクションから現実を組み立てるかという話だ。パリという現実の都市を訪れる人々の多くは、歴史や政治、芸術にインスパイアされて思い描いた、人それぞれに意味の違う空想の地図を胸に抱いてやってくる。つまり目に映る街は前もって規定されたもの、観客がどの映画を観るか(または観ないか)は、劇場に入る前に決めるのと何ら違わない。

 『ウイ・ノン』は、移り変わりの話でもある。セルロイド・フィルムからデジタルの美意識へ、硬直から柔軟性へ、巨額の費用にあえぎながら映画を撮る苦しさから、経費ほぼゼロで作品を創る楽しみへ。受け手であるあなたには、“物語”に期待や予想を抱く観客としての習慣を忘れて、実際の人生のようにあるがままを見て、観察してほしい。そして疑問を持ってほしい。

 作者としては、これはある場所から新たな場所へのステップ、過渡の作品という思いが強い。フィルムの時代は終わった。


- ジョン・ジョスト

1943年、シカゴの軍人の家庭に生まれる。ジョージア、カンザス、日本、イタリア、ドイツ、ヴァージニアで育つ。1963年に大学を退学になり、16mm映画を撮り始める。 短編20本、長編13本を製作、原案、脚本、撮影、監督、編集をすべて手がける。1965年に兵役拒否により、懲役2年3カ月に処せられる。釈放後、政治活動に参加し、シカゴで新左翼系映画製作・配給グループのニューズリールの立ち上げを支援。兵役拒否などに協力。1974年に初の長編を監督後、広範囲にわたり作品を製作、特にアメリカの時事問題を、映像エッセイや劇映画、実験作品などの様々な手法で取り扱う。1975年より、博物館、フィルム・ライブラリー、映画祭などで作品が上映される。本映画祭では1989年に『プレーントーク&コモンセンス』(1987)、1997年に『ロンドンスケッチ』(1997)、2001年に優秀賞を受賞した『シックス・イージー・ピーセス』(2000)を上映。


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