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シマ/島――漂流する映画たち



テレサ・ハッキョン・チャ
マリア・ロザリー・ゼルード

助成:文化・芸術による福武地域振興財団


うちくい/ポジャギをひらく

 うちくい/ポジャギとは、心を包むという意もこめられた風呂敷を指す沖縄・八重山/朝鮮のことば。可視/不可視な数々の出逢いや繋がりが紡いだ珠玉の糸に編まれたうちくい/ポジャギともいえる「シマ/島」がまもなく現れる。

 そもそも本特集を構想するきっかけはYIDFF 2003の沖縄特集であった。沖縄を巡る映画を思考する旅は、眼差しの詩学と政治学を辿る非常に刺激的な営みであった。と同時に沖縄を舞台にした/についての圧倒的な作品数に対し、沖縄に生きる作家の手による作品の数少なさや現場の葛藤に直面した。地政学的に「不便」で「孤立」させられる島々は、植民地、戦争の歴史と現在形の政治的暴力が行き交う現場を見つめることの厳しさと創作の困難な環境とがせめぎ合う。その中で映像表現をどのように発揮できるのか。政治的、文化的状況が後押しする一過性の衝動は、継続的な制作を支えきれない。

 沖縄という地に縛られずに投げかけられるこの問いに応える思考の漂流は、生まれ島をすでに追い出され、作品を作ることで 「シマ」を作っていく、むしろ島を持ちえない/持たない作家たちにも注目し、シマ/島で映画を作ること、映画を作るシマ/島を作ること、そしてところどころに映画という「シマ」を作る、という映画とシマとの懸け合いの海路/回路を発見する試みへと結びついた。

 コンパスがアジアを示し、ふたつの示唆的な機知を得る。ひとつは、フィリピン・イロイロ市で2008年に開催されたKAPWA会議。民族音楽家、舞踊家、画家、映画作家などのアーティスト、シャーマンと学者とが、国内外から集まり混在し、グローバル化の時代にフィリピン先住民の知恵を、現在に息吹かせていくことについて、思い思いにことばや身体を捻らせほぐしていた。そのコンセプトに引き寄せられた出逢いのひとつの実りは、2009年8月より山形で滞在制作を行っているマリア・ロザリー・ゼルード。ふたつ目は、成蹊大学アジア太平洋研究センターの共同研究プロジェクト「アジア・政治・アート」が沖縄で行ったワークショップで交わされた様々な表現と応答は、有相無相に琴仙姫、ジェーン・ジン・カイセン、テレサ・ハッキョン・チャの作品群へと導いてくれた。

 他にも、各地で見られる、その土地に合ったデジタルビデオ世代の映画制作の試行は、既存のフォーマットに当てはまらない映画上映・制作の熱風を吹かせ、フィルム文化とデジタル文化の重なる地に立てることも歓ぶ。また、本特集ではアジア的身体表現を含むパフォーマンスや上映も行い、映像・パフォーマンス・ダンスの親密な関係に注目する。

 めくるめくシマと映画の懸け合いから、喪失や痕跡、形得ないものをつなぎ止め、残すことがドキュメンタリーの天性なのかもしれない、と。映像表現が多様に拡がりつつある現在だからこそ、「シマ/島」がドキュメンタリー制作の模索の中で続いて行くことへの期待を隠さずにはいられない。そこでは、チャの「追放された人間の、孤独であるが故の英知」がことばの杖となる。

 プログラム準備にあたって、様々に「シマ/島」に思考を巡らせておられる方々から創造的なお話や助言いただき、温かく緊張感のある場と時間を共有した。ここに深く厚く感謝を記し、そして共にシマの地図を描く観客のみなさまの参加に深くお礼申し上げます。

濱治佳