English
「現実の創造的劇化」:戦時期日本ドキュメンタリー再考

労働を綴る



華やかな世界とは無縁の実在の労働者たちを映画の主役にする、そのこと自体が作り手たちの挑戦であった。黙々と仕事に励む人々、その技術と知恵、そして対価の獲得といった経済活動までを一体でとらえる3作品。その視点は情緒的なヒューマニズムを離れて、社会構造の中の人間の営為を見つめようとした。


流網船

Drifters

イギリス/1929/サイレント/英語インタータイトル/モノクロ/16mm(原版:35mm)/48分[20fps]

監督、編集:ジョン・グリアスン
撮影:バジル・エモット
製作会社:帝国通商局映画
提供:コミュニティシネマセンター
バイオリン生演奏:鈴木崇(作曲家)

「ドキュメンタリー」という言葉を世界的に広めたイギリス・ドキュメンタリー映画運動の立役者、ジョン・グリアスンによる代表作。従来の劇映画が扱わなかった労働の現場に目を向け、近代漁業に携わる人々の姿を生き生きと描き出した。一連の漁獲作業のみならず、漁船のメカニズム、漁師たちの衣食住、水中の魚や上空の鳥、嵐の襲来などの種々の要素を巧みに織り交ぜている。水揚げした魚の売買といった交易活動までを労働の一環として語るアプローチは、その後のドキュメンタリー映画で大いに参照された。



炭焼く人々

People Burning Coal (People Making Charcoal)

日本/1940/日本語/モノクロ/35mm/19分

構成:渥美輝男
撮影:栗林実
音楽:伊藤宣二
製作会社:大阪毎日新聞社、東京日日新聞社
提供:国立映画アーカイブ(神戸映画資料館所蔵16mmプリントをブローアップ)

東北の冬の山村、昔ながらの炭焼き暮らし。かまど用の石集めに始まり、木炭が出来上がり、売られてゆくまでの過程を丁寧にたどるなかに、火加減を見つめる男のクロースアップや雪原を進む者たちのロングショットが挟まり、詩情を添える。わずかに得た収入で食糧品などを求めるやりとりも同時録音で収められている。作者の渥美曰く、「現実に働く人々の演技」を求め、現地で出演者を探した。猛吹雪に襲われる終盤のシーンではそうした「演技」が発揮されている。



和具の海女

The Ama Divers of Wagu

日本/1940/日本語/モノクロ/16mm(原版:35mm)/25分

演出:上野耕三
撮影:喜多村幸次郎
録音:武田俊一
音楽:宮淳三
製作会社:横浜シネマ商会
提供:神戸映画資料館

元プロキノ(日本プロレタリア映画同盟)の上野が、映画批評活動を経て制作現場に復帰した第一作。三重・志摩半島の和具町に暮らす海女たちのたくましい働きぶりを丹念に描く。当時の最新技術による自在な水中撮影と、そこに映し出された海女の伸びやかな身体が、ひときわ目を引く。彼女たちのリラックスした表情や浜辺の賑わいも、現場音を取り入れながら印象的にとらえている。と同時に、女性労働の苛酷さをも伝える。