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日本プログラム



「日本」から発された問いかけ

 日本に関わることがらを独自の視点で描いた作品を紹介する日本プログラム。

 『牛久』は、入国管理センターという国家が管理する施設で非人道的な収容が行われ、人間の尊厳が傷つけられていることを告発する映画である。権力が暴走する境界線は行使する側には見えていないという重要な問題を本作は提起している。『きみが死んだあとで』は、1967年の第一次羽田闘争で命を落とした大学生につながる記憶を紡ぐ。権力への意義申し立てであった学生運動の帰結はたやすく歴史に回収されるものではないだろう。個人の記憶にどう向き合い未来へ生かしていくのかを本作は強く問うている。『BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW Omnibus 2011/2016/2021』は、東日本大震災から10年かけて4人の作家が思索し生まれたオムニバス作品である。企画者による指示書に従い昨日と明日を行き交いながら作られた5分の作品は今年12本になった。過去と未来が豊かに混ざりあい作家それぞれのいま・ここが現れる瞬間にぜひとも立ち会ってほしい。『へんしんっ!』は、映画作りを通して身体とは何か、表現とは何かを探究する。それは翻って「映画とは何か」という問いでもあるだろう。しょうがいが表現となることに対する作家の驚きと喜びを、観る者はともに体験することができる。そして、『私はおぼえている』では、鳥取に根ざした10人の記憶に作家が耳を傾ける。カメラを前に土地のことばで語られる個々の記憶は、映画によって永遠の記憶となるだろう。

 これらの作品は、「日本」ということばで一括りにできない、作家それぞれのたゆまざる思考の軌跡である。その多様な表現をどのように見るか、そこから何を考えるかは、観客の手に委ねられている。

加藤初代(プログラム・コーディネーター)