english
YIDFF 2003 インターナショナル・コンペティション
生命(いのち)
呉乙峰(ウー・イフォン) 監督インタビュー

生命について考えてほしい


Q: この映画を撮ろうと思ったきっかけは何ですか?

WY: この作品では地震の被災地を撮っているのだけれども、地震という災害の現象そのものを撮ろうとしたわけではないのです。現象を撮ることがドキュメンタリーだとは思ってないから、テーマはそこではなくて、地震という現象に出会った時に、何を記録すべきかが私にとって最も大きなテーマだったわけです。地震の被害によっておった心の傷を、どのように乗り越えていくのか、人間はそういうところにどれだけ強さを持っているのか、ということに興味がありましたから、人間の内面を撮ることこそが目的でした。だから3、4年をかけて対象を捉え、彼らがだんだんと心の傷を乗り越えていく様を追ってきたわけです。そして私としてはやはり、生命ということにとても関心がありましたから、それが大きなきっかけになったのです。

Q: 作品からは、監督と彼らの間には信頼関係が築かれてるように感じたのですが。

WY: 撮影の時はまず、友人になることがとても重要だと思います。会ったばかりの人にいきなりカメラを向けても、もちろん駄目なわけで、カメラに向かって喋ってくれるかどうかは、対象からどれだけ信頼を得られているかが問題なのです。こういうドキュメンタリーを撮るということは、撮る側・撮られる側の両方にとって、成長していくプロセスだと思うんです。ある一定の期間を一緒に辿ることで、こちらの個性と向こうの個性、お互いにお互いの個性を理解しあえるようになります。そういうプロセスがあって、とても自然な流れで彼らは何でも話してくれるようになっていったのです。

Q: 具体的にはどのように信頼関係を築いていったのですか?

WY: 私達は地震が発生した直後から被災地に入り、彼らに付き添ってきました。最初はひたすら彼らのそばにいて、手伝っていましたが、その頃彼らは私達のことをどこかのテレビ局の人がやってきたと、疑わしく思っていたのです。しかし私達は、テレビ局や報道関係者達が被災地から引きあげたあとも、そのまま残って彼らに付き添い続けました。私達は彼らの悲しみを間近で見ていたのです。そうして彼らは、私達のことをだんだんわかってくれるようになりました。

Q: この作品には、監督のどういう思いが込められているのですか?

WY: 生命とは何か、これまでにもあらゆる人達がこの問題を取り上げては、答えを出そうと考え続けてきたわけですが、これが正しいというきちんとした答えは、結局出ていないのです。しかし、例え答えが出なかったとしても、この問題について考えるということ自体に意味があるのだと私は思います。最近の人達は生命とは何か、ということを考えることが少なくなってきているけれども、この映画を観ることによって、そういう人達にとっても考えるきっかけになってくれればと思っているのです。答えは出なくとも、誰もその答えを得られていないのだから大丈夫。答えはなくてもいいんです。考えるきっかけになってくれるだけで十分だと私は思っていますから。

(採録・構成:園部真実子)

インタビュアー:園部真実子、田中陵/通訳:樋口裕子
写真撮影:佐藤寛朗/ビデオ撮影:加藤孝信/ 2003-10-10