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ドキュメンタリーは語る
YIDFF 2023 インタビュー集


インターナショナル・コンペティション

アジア千波万波

特別招待作品

  • 空音央 『Ryuichi Sakamoto | Opus』監督

日本プログラム

  • 井上実 『キャメラを持った男たち ―関東大震災を撮る―』監督
  • 大川景子 『Oasis』監督


 「ドキュメンタリーは語る」という名称を聞き覚えのある人もいるかもしれない。本インタビュー集の名称は『ドキュメンタリー映画は語る――作家インタビューの軌跡』(未来社、2006年)に由来する。山形映画祭はかつて機関誌として1992〜2007年まで「Documentary Box」を発行していたが、その中のシリーズ企画「日本のドキュメンタリー作家」からのインタビュー記事を集積し、新たな解説を加え再構成したものが、その書籍である。

 映画祭のインタビュー史を紐解けば、1989年第1回目山形国際ドキュメンタリー映画祭の日刊紙「デイリー・ニュース」にまで遡ることになる。山形での映画祭初開幕の支柱のような存在であった小川紳介は82年に参加したベルリン国際映画祭日刊紙に触発され、新しい映画祭でも実現すべく地元在住の若者たちを結集させた。だが、その大半が媒体制作の未経験者だったため、プロの編集者を投入。開催期間限定で構成された、にわか編集部の誕生である。ロバート・クレイマー、勅使河原宏、リチャード・リーコック、ヨハン・ファン・デル・コイケン、セルジュ・ダネー、マルセリーヌ・ロリダンなどなど錚々たる映画人たちが招かれ、今やすっかり常連監督となっているイグナシオ・アグエロの若き姿もあった。当時の紙面を再読してみると、「ドキュメンタリーとは何か」という質問を実にダイレクトにゲストたちに投げかけている。用意周到に準備された記事というよりは即興性が高く、その場で臨機応変に取材して翌日には記事発行と、その時代のワープロと紙面完成までのプロセスを考えると常軌を逸しているかのようなパッションとエネルギーに溢れている。その後も「デイリー」は監督たちのインタビューを継続して掲載。そのスタンスはやがてはゲストである監督たちをメインに、なるべく多くの作家たちをインタビューする方向により軸足を置く。開催期間内にニュースとして掲載できないものに関しては、全てのインタビュー記事を『デイリー・ニュース plus』として後日小冊子として刊行し、あるいはサイトで公開した。それは2019年まで引き続いたが、2021年のコロナ禍でのオンライン開催をきっかけに「デイリー・ニュース」は残念ながら休刊となり、現在は映画祭ガイド『SPUTNIK』が日刊紙の役割を担っている。

 こうして34年目を迎え、映画祭媒体自体にも様々な歴史や変容が刻まれているが、今回「ドキュメンタリーは語る」として「デイリー・ニュース」の監督インタビューと「Documentary Box」ドキュメンタリー作家シリーズの交差する地点からの初めての取り組みである。一部事前のZoomインタビューもあるが、そのほとんどは開催期間中に取材し最終的には39名の作家をとりあげることができた。「デイリー」では多くのボランティアが聞き手として活躍してきたが、「Documentary Box」作家シリーズのごとく研究者、評論家をはじめ映画祭選考委員・関係者、監督、カメラマン、通訳者、さらには「デイリー」で腕を磨いてきたボランティアの方にも参加してもらうなど多種多様な方たちに協力を仰いだ。その聞き手の人選には「デイリー・ニュース」の初回発行人であり、東京事務局長であった矢野和之からの提案や畑あゆみ山形事務局長、プログラム・コーディネータからのアドヴァイスが大いに反映されているだけではなく、30年以上の映画祭歴史そのものもある種凝縮されている。つねに柔軟に対応していくことは山形映画祭の推進力でもあるが、同時に新しい試みゆえの問題もあり、反省点も多い。だがそれでもなお、それぞれの作家の制作状況、信念、創造性、ドキュメンタリー映画への想いのみならず、聞き手さえの立場や背景が色濃くでている厚みのある記事になっているのは間違いない。再びYIDFF 2023の余韻を味わいつつ、作家たちの生の声、さらにはその対話も楽しんで読んでいただければ幸いである。

 最後に、この場をかりてインタビューや聞き手を快く引き受けてくださった方々、通訳・翻訳者、関係者のみなさまに深く御礼を申し上げます。

小野聖子



編集班:小野聖子、佐藤寛朗、馬渕愛、ジェレミー・ハーレイ
記録班:桝谷秀一、村山秀明、加藤孝信、楠瀬かおり、大下由美
現場コーディネーター:岡部愛
協力:アーロン・ジェロー、加藤初代、衣笠真二郎、塚田孝之、中村大吾、野村亜紀、森栄子(蛾王)、矢野和之、若井真木子