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YIDFF 2005 アジア千波万波
ガーデン
ルーシー・シャツ 監督インタビュー

人々のおなかにキックをいれるような問題提起をしていきたい


Q: これまでも、社会から目をそむけられてしまうような現実と向き合う作品を撮られてきた監督が、今回ふたりの少年に注目したのはなぜですか?

RS: 人間として希望を持たせてくれるテーマを探していました。昔からよく通っていたこの地域は、本来希望の無い、人間が最後に行き着くギリギリの場所。その中で生きるふたりには命の輝きがあり、自暴自棄にならないマジックがあり、友情という希望を感じました。そして何より、彼らを心から好きになったことが、今回の作品づくりの最大の理由です。友情は、誰にとっても特別なものです。だからこそ、彼らふたりの友情をフォーカスして取り上げました。

Q: 難しいテーマなだけに、監督ふたりの間に意見やアイデンティティの相違はなかったでしょうか?

RS: 今回の作品はふたりにとって、一緒に撮った3本目の作品です。体験的に、互いに何を感じているのか、どう撮りたいのかは、理解し合っています。我々は、言葉はなくともサポートし合える関係を築いています。勿論、時にはぶつかり合うこともありましたが、常に同じ方向を向いていることは、作品作りには重要なことです。互いの理解が無ければ、結婚もしてはいなかったでしょう。8年前に映像の大学で出会い、彼(アディ・バラシュ監督)の卒業制作を私が編集したのがきっかけです。1作目である『Diamonds and Rust(ダイアモンドと錆)』はナイロビで撮影した作品で、国際的にふたりの名前が知られるようになった作品でもあります。2年前に結婚した私たちには 2歳になる息子がいますが、彼の将来を考えると、ありきたりではありますが、公害の無い、平和な社会であって欲しいと願います。親であるひとりの人間として。けれど、それは非常に難しいとも思います。なぜなら、人間は、時として意地悪なエゴイストで、地球にも優しくない存在であるから……。もし、映画を観てくれた人が「私に何かできることはあるのだろうか?」と思ってくれたのなら、それは個人個人がもっと身の回りに目を向け、社会の一員である自覚を持つことであろうと思います。自分の大切な存在に優しくなることが、まず第一歩なのでしょう。

Q: 彼らに感情移入しすぎることはありませんでしたか?

RS: それが最も難しかった点です。親密になりたい気持ちがある一方で、極めて細い線引きが必要でした。まずは、彼らの住む世界と我々のそれとは、まったく違うことを、理解しなければなりませんでした。特に優しく接し、彼らの言動には敏感に対応しました。なぜなら、彼らはこれまで、あまりに多くの大人たちから虐待をうけ、騙されてきた背景があるからです。それ故に、初めは一歩引いた目線で見ており、十分に考え言葉を発していたし、行動していたのです。我々は、間違った印象を与えてはいけない、傷つけてはいけないと細心の注意を払い、幾度となくコミュニケーションをとり、十分な理解を得たうえでカメラを廻しました。とはいえ、彼らの置かれている状況を見放すことはできず、何度も裁判所に掛け合いました。ただし、それは撮影が終了した後のことです。それはドキュメンタリー映像作家としてのルールだと思います。現在ニノはイスラエルの永住権を得、ドゥドゥは薬も売春も止め、祖母の元で暮らしています。しかし、複雑な環境で育った彼らは、いつまた元の生活に戻るかもしれないという “危うさ”を秘めています。人生は複雑なのです。我々は映画製作者として、社会にまだたくさんある“ガーデン”と常に向き合いつつ、人々のおなかにキックをいれるような問題提起をしていきたいと考えています。

Q: 次回作は?

RS: 貧困家庭で育ったユダヤ人ボクサーの話です。彼はミドル級で世界チャンピオンになると期待されています。彼もまた、複雑な社会環境で育ち、自らの力で成長している青年です。作品はすでにニューヨークで撮影し、2006年末には完成する予定です。

(採録・構成:塚本順子)

インタビュアー:塚本順子、楠瀬かおり/通訳:川口陽子
写真撮影:小山大輔/ビデオ撮影:小山大輔/ 2005-10-11