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YIDFF 2005 アジア千波万波
忘却
サヴァシュ・イルハン 監督インタビュー

経験を奪う忘却という暴力


Q: 映画に登場した刑務所でのストライキ事件について、政府による報道規制はされていたのでしょうか?

SI: 政府は報道規制をかけず、事件は最初からすべてが報道されていました。ですから、ニュースを見ていた市民は当然それなりにこのストライキのことを知っていたはずです。しかし、ニュースを見ている時には理解しておきながら、時間がたつと大衆はすぐ忘れてしまう、そのことを記録として残したかったのです。問題は、事件が起こったこと自体をたいしたことだと思わないこと、考えないで捨ててしまうことです。このことは経済問題や政府の政策や市民の問題など、ほかのことでもいくらでも同じことが起こりうるということを警告する意味で、この映画を制作しました。その事件に関わっていた人だけがずっと覚えてるのですが、その周りの大衆は、事が過ぎたら忘れてしまう、そのことにターゲットを絞りたかったんです。

 この映画の重点は、政治的な背景よりもその記憶障害、忘れるということにありました。だから、このストライキ事件のことを私たちはオープンにしたかったわけではありませんでした。この事件を選んだのはたまたまだったんです。

Q: 出演されている方々は、事件に「巻き込まれた」ような、ストライキをしたことでさまざまな障害を負い、「後悔している被害者」という描かれ方をしているように見えます。その点がひっかかかっていたのですが。

SI: ちゃんとストライキの記憶が残っている人たちも、全然後悔はしていないと思います。彼らは信念があってそのハンストに入ったのですから。政府側の「快適な独房・Fタイプ」をなぜ拒んだかというと、自由に生きられない何も考えさせない、その環境を拒否したのです。Fタイプの独房に入ったら、そんな豪華なところに入っても、一日中何もできずにいなければならない。それは人権侵害だと主張して、その意思表示として彼らはハンストに入りました。だから、なぜ悲しそうな、後悔したような表情がでるかというと、それは自分の障害に関してではないはずなんです。彼らの運動は、トルコの国民のためにと思っての運動でした。そのために現在、確かにこういう結果になってしまっています。けれども彼らは抱えてしまった障害に対して、悩んだり悲しんだりしているのではなく、自分が命をかけて大衆に訴えたはずなのに、その大衆が現実を忘れている、そのことが悲しいんです。

Q: 映画を撮るうえで、一番苦労したことはなんでしたか?

SI: 制作するうえですべてのことを、監督の5人で会議して決めていきましたが、5人が一致しなければ先に進めませんでした。主題を決めるのにも2〜3カ月かかっています。次に、ドキュメンタリーですから正しいことを伝えなければなりません。政府側の要求としては、どこを見せるのがわかりやすいか。被害者というか、この人たちの言い分はどういう表現だったらわかるか。その選び方に一番苦労しました。私はカメラマンと編集の担当でしたが、最も大変だったのはモンタージュでした。

(採録・構成:大竹麻衣)

インタビュアー:大竹麻衣、楠瀬かおり/通訳:川島恵美子
写真撮影:佐藤朱理/ビデオ撮影:菅原恵子/ 2005-10-08