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YIDFF 2005 ニュー・ドックス・ジャパン
わたしの季節
小林茂 監督インタビュー

丸ごと“自分の人生”を掴んで欲しい


Q: 今回の作品を作り始められたきっかけは?

KS: 私の大学時代の友人が、重症心身障害者施設「第二びわこ学園」に勤めていたんです。彼が就職したのが30年くらい前のことなんですけど、時々彼を訪ねて学園の手伝いをしたりして、つきあいが続いていたんです。2001年の正月にその友人から電話が来て、第二びわこ学園が老朽化して新築移転する計画が進んでいる、ついては入所者がここで暮らした証しを映像に残して欲しい、という話があったんです。私は学園のことをよく知っているつもりでしたし、大変さが目に見えていたので、最初は半分断るつもりだったんですよ。ところが、映画になるかどうかって目で入所者たちを見た時に、僕は彼らを忘れてたんですね。久しぶりに会ったら年をとっていて、彼らも僕と同じ時間を生きてきたのに、それをすっかり忘れてたということに、自分自身すごくショックでした。そしてもしこの映像がなければ、ここで彼らが40年間暮らしていたということさえも、何か夢のような世界になってしまうんだろうか、とふと思ってね、「これは絶対残しておかなきゃ」と、そう思ったんです。

Q: 愛情が感じられる映像でした。

KS: 今時珍しいフィルム作品になりましたけどね。それはビデオが悪いということじゃないんですよ。ただ、「大仕掛け」にしたかったわけ。「小林君がひとりでビデオを撮ってるらしいで」というのではなくて、ちゃんとしたスタッフを集めて、学園にも「映画を作るんだ」という雰囲気を作ってもらってね。そのためには、全員が力を出して協力しなければという「覚悟」をしてもらってね。そういうものにしていくには、フィルム作品は適しているんです。それに、彼らの皮膚感を感じられるような映像をめざしました。

Q: 監督ご自身の覚悟もあったと思いますが。

KS: 実はクランク・イン直前に脳梗塞で倒れて、半年間療養生活をしていたんです。CTを撮るのにストレッチャーで動くんですけど、寝ていると天井の蛍光灯が川のように流れていくんですよね。学園にはストレッチャーに乗っている子どもたちもいっぱいいて、「ああ、彼らが毎日見ている風景ってこういうのか」と実感してね。自分が障害をもって初めて見える世界があることを知りました。ちょっと外に出て移動する時の風の心地よさ。空のまぶしさ。それがほっとするんですよね。ほんの僅かな50mも無いような間でも、なんと世界を感じるんだろうと思って。とにかくキャメラを持ったら、学園の廊下の天井から空へ抜ける風景を撮るんだって。このシーンでは、超重症児といわれる人たちにはどういう未来があるんだろうかと感じて欲しいし、外に出ることの素晴らしさを、空と雲とで感じて欲しいなと思ったんです。

Q: 見終わったあとに爽やかな気分になりました。

KS: そんなふうに見てもらえればありがたいと思うんですね。いつも思うのは、映画に出てくれた人が映画の中で輝いて欲しいと思うんです。第二びわこ学園の彼らは、自分の人生を丸ごと引き受けているような気がするんですよ。それは大変な障害を持っていると思いますけど、人生の受け方というのはすごいなと思いますよね。そういう人たちと、見る人が出会って欲しいと思います。すごく豊かないろんな人と出会った結果として映画になるわけですから。キャメラが介在することで光り輝いていくような関係で映画を作って、そんな雰囲気が見る人に伝わって欲しいと思うんです。

(採録・構成:加藤孝信)

インタビュアー:加藤孝信、加藤初代
写真撮影:加藤初代/ビデオ撮影:加藤孝信/ 2005-09-07 東京にて