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YIDFF 2005 日本に生きるということ――境界からの視線
百萬人の身世打鈴(シンセタリョン) 朝鮮人強制連行・強制労働の恨(ハン)
前田憲二 監督インタビュー

何よりも、人間を見つめることが大切なんです


Q: この映画は、本を作るための企画として始められたとうかがいましたが?

MK: 最初は『百萬人の身世打鈴』(東方出版)という本を作るために、日本全国と韓国を7年間かけて、126人に取材して回ったんですが、「本だけではもったいないから映画も作るべきだ」と提案されて、それで撮ることになったんです。1997年に撮影を始めて、2000年に完成しました。映画に出てくる証言者の方たちは17名ですが、実際には50名くらいに取材しています。

Q: 敢えてフィルムで撮影された理由は何ですか?

MK: こういう言い方が良いかどうかわからないですが、味が薄いんですよね、ビデオは。薄口醤油みたいなものでね。ところがフィルムで撮ると舌触りが良い。それでフィルムで撮ったんですけど、お金が大変ですよね。スタッフも多い時は10人以上、少ない時でも7、8人で行くから、予算的にも大変だったんですよね。

Q: 生き生きとした証言はどのように捉えられたのですか?

MK: 行ってすぐに撮らないんですよ。行ってすぐ撮ったらダメ。やっぱりまず自分をわかってもらう。そして相手も「この人だったら喋っていい」となる。その時間がやはり大切ですね。断られても何回も通った結果OKをもらって、それから撮った人が多いですから、よりいっそう心を開いてくれて、長い人は8時間、10時間、場合によっては2日に渡って撮った人もいるわけです。そうやって撮影させてもらったフィルムを、断腸の思いで1人5分とか10分とかに切っていくわけだから、これは大変なことですよね。

Q: 一般的に「告発の映画」は、作者の思いが強すぎて一方的になる危険があると思いますが?

MK: この映画の基本は「告発」では無いんですよ。僕はアジテーションは大嫌いだしね。そうじゃなくて、この映画で大事にしたことは、「人間」なんです。人間をどう見るか。どういう風土の中で生まれ、時代背景はどうだったか、ということをちゃんと見なくちゃいけない。つまり、ソウルで育った人と、木浦(モッポ)で育った人とはやっぱり違うわけですね。だからそういう環境もよく見ながら、その人の精神形成がどうであって、いつどういう時に拉致されたかとか、強制連行されたかとかを描かなくてはいけない。

 長崎県に、軍艦島ってあるんです。僕は2度行ったんだけど、そこで働かされるということがどういうことかってよくわかりました。つまり、島全体が鉄筋コンクリートで、1本の樹木もない。あるのは地下に潜る坑道だけで、それも、500〜600メートルも潜って仕事をするわけですね。彼らはそういう環境に入れられて、何の償いもされてないわけです。ですが、それでも逞しく生きている。そのことを、僕たちはやっぱり学ばなくちゃいけないと思いますね。

Q: 確かに、証言者の人間的な強さが印象に残りますね。

MK: つまりこういうことだと思います。やられてもやられても、踏んづけられても立ち上がる精神力、そしてそれだけの豊かな人間性があるということ。だから打ち負けないわけですよ。そのあたりのコリアンの凄さ。これは僕たち見習わなくちゃいけないと思う。ただ、そういうことをされて未だに何の補償もないということで、日本に対して償いをして欲しいという人も一方にいるわけですよね。それをたとえば、政治はどう見るか、ということが大変大事だと思いますね。映画を作る意味もその辺にあるわけですよ。

(採録・構成:加藤孝信)

インタビュアー:加藤孝信、加藤初代
写真撮影:加藤初代/ビデオ撮影:加藤孝信/ 2005-10-05 東京にて