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YIDFF 2007 交差する過去と現在――ドイツの場合
誰しもすべては語れない
マーク・バウダー 監督インタビュー

過去も現在も未来もお互いに影響しあっている


Q: 東ドイツから西ドイツへ追放された3組の人々とその家族が出てきますが、どのように選んだのですか?

MB: 私たちの撮りたい映画に沿って、ちゃんと人前で話すことのできる人の家族を選びました。囚人だった彼らは家族に対して、自分の過去を話していませんでしたが、私が映画を撮ることを通して、家族に自分の過去を話すことができました。撮影の仕方として、私が彼らの体験を聞いても、勝手に彼らの子どもたちにその体験を話したりしないということを固く守って、彼らが直接子どもたちに話すことをベースに撮影を進めました。4年間かけて撮影をしたので、その間に関係がとても親密になり、最後は友人のようになりました。今でも友人としてつきあっています。

Q: この映画を見た3組の家族、また他の人々の反応はどうでしたか?

MB: 家族の新しい情報を得ることができたから、彼らはすごく幸せだったと思います。自分たちが今まであまり知らなかったお互いの情報を映画を通して知ることができました。たとえば、子どもは親の違う面を見ただろうし、また親も子どもの違う面を見た、という感じに。だからとても反応がよかったです。この映画を見て、それまでちょっと疎遠になっていた家族がもう一度親密になりました。また、映画を見た私の友人のひとりは、急に自分の親に電話したり、昔囚人だった経験のある人に知らせて、その人の子どもたちにも映画を勧めたりしました。そういう形でも反響が広まっていきました。

Q: この映画で観客に伝えたかったことは何ですか?

MB: 私としては、こういうことを感じてほしいとかそういうことが大事なのではありません。最初に自分がある主題を持って映画を作る、そこが出発点だと思っています。そして、映画を見た人がいろいろなことを調べたり、感じたりしてそこから始まっていく、と思っています。こういうメッセージを送りたい、ということはありません。人々の間でいろいろなことを伝え合うことが大事ということが自分の送るメッセージです。

Q: 上映後の質疑応答で「過去が現在にどのように影響しているかを撮りたかった」とおっしゃっていましたが。

MB: 30年前の過去が、現在に影響して、なおかつ現在だけではなく、未来にもそれが影響することを描きたかったのです。それが私の主題です。日本でも他の国でも同じように過去を話さないと、それが現在に影響してきます。過去のことをきちんと知っていれば、そこで問題は起きないのです。過去は隠されているから、そこでまた親とも話さなければなりません。分かれてはいるけれど、過去も現在も未来もお互いに影響しあっているのです。

(採録・構成:高島幸江)

インタビュアー:高島幸江、峰尾和則/通訳:斉藤新子
写真撮影:金子裕司/ビデオ撮影:金子裕司/2007-10-09