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YIDFF 2011 インターナショナル・コンペティション
監督失格
平野勝之 監督インタビュー

ゼロ地点からの出発


 由美香が亡くなったことに対して、実は怒っていました。事故とはいえ彼女の体調管理が招いたことで、間抜けな失敗で亡くなってしまったことに、怒り、また、皆が傷つきました。だから由美香に今さらさよならなんて言える訳もなく、彼女が一番見たいであろう僕の無様な泣き顔で負け宣言をしました。そんな姿をみせてやるからいっちまえ、という感じでした。だからラストでもさよならではなくいっちまえ、なんです。

 由美香はわたしの人生の節目にいる女性でした。まず、AVの第1作目に彼女を撮り、恋をしました。でもまったく相手にされず、6年が過ぎました。6年たっても彼女はまだこの業界にいて、とある上映会で再会してお付き合いするに至りました。仕事では、由美香と組むと壮大なエロビデオとか、何でも可能な状況になっていきました。劇場映画も第1作目は由美香でしたし、最後はこの事故です。死ぬ時までカメラが廻っていて、その映像を使った映画が、今山形でも上映されています。映画という部分では、お互いに最大限の効果が発揮できる相手だったと思います。そう思うのも、亡くなってしまい、映像が手元に残り、映画ができて大きな規模で公開されている状況を総合的に見ると、そういう人だったのかと。実際生きていたら単なる腐れ縁ですが、普通はこういう関係までいかないので、恋愛や不倫で語られがちなのですが、そうじゃない関係があるということをちゃんと言いたいです。矛盾している部分もあったと思います。それは彼女も同じです。ただ、大半の人は矛盾を受け入れられず、何か理由がちゃんとあって欲しいという願望があるため、夫婦や恋人など、いろいろな記号に当てはめがちですが、実はそうじゃないのです。由美香との関係は、一番分かりやすく言うと、映画監督と女優、撮る者と撮られる者の一番幸せな関係で、いい仲間でした。

 今回の前半の素材は『由美香』と被るところが多々あるのですが、編集に対する思いはまったく違います。『由美香』では彼女が60歳70歳になって、ゲラゲラ笑えるものを作ろうと思い、自分のロマンなどはいったんどけて編集しました。そのため、タイトルも『由美香』にしました。

 一方、『監督失格』は自分のための映画です。『由美香』と同じ素材を使っているため、ピックアップする部分に似た部分がありますが、テーマが違います。この作品では、由美香のキャラクターがはっきり出ている部分、魅力的な部分、生い立ちがわかるもの、などを選んでいきました。そして、死のテープも。死のテープは素材を使うことがデリケートでした。ママも、弟も、自分も傷つけることになり、一歩間違えれば大バッシングで生きていけなくなるかもしれませんでした。60点、70点の映画では許されません。非常にプレッシャーがありました。当時はプレッシャーとテープに振り回され、半端なまねはできないと強く思っていました。

 僕は生きていかなければならないので、映画を作っていきます。今はゼロ地点に立っていて、これからどうなるかなんて分かりません。由美香のような人が現れるかもしれないし、それも分かりませんが、とにかく作っていきたいですし、今はいつでも作れるテンションです。

(採録・構成:渡邊美樹)

インタビュアー:渡邊美樹、須藤花恵
写真撮影:大石百音/ビデオ撮影:梅木壮一/2011-10-10