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YIDFF 2013 アジア千波万波
怒れる沿線:三谷(さんや)
陳彦楷(チャン・インカイ) 監督インタビュー

“三谷”とは、困難を乗りこえること


Q: 菜園村の人々が、カメラを持つ監督へ親しく話しかけ、本音を吐露される。とても良い関係ですね。畑が警備員や作業員に踏み荒らされ、村人の方が泣いて阻止しようとする場面は、悲しくて胸がつまりました。あの時の監督のお気持ちをうかがえますか?

CY: 今回の作品は3部作の3作目ですが、しだいに撮り方が変化していきました。第3部にもなると村人たちとかなり親しくなりましたが、最初は自分もカメラを置いて、立ち退き反対運動に参加していました。第2部を見せた村人から、なぜ自分たちが悩んだり泣いたりしている部分がないのか?と聞かれました。

 当時の私は、そんなところを撮っては失礼という思いと、親しさから冷静でおられずカメラを止めていました。でも彼らの言葉に、自分は記録を撮る人間という立場で、すべて撮らなければと思いました。ただ、抗議運動では撮影のほかに、お年寄りの安全の確保など、やることが多くて大変でした。

 この映画は、村人たちと相談しながら作ったので、映画に彼らの言いたいことを盛り込みました。別の場所で上映した際、観客の感想や意見を村人に伝えることで、外の人と意見交換できる、そういうことがドキュメンタリーの効果だと感じました。

Q: 撮影のきっかけは何だったのですか?

CY: 2000年頃、大学生の時に香港では都市開発に伴う強制移転が各地で起こりました。その時に菜園村の抗議運動を知り、何かできないかと思いました。それと大学卒業後、農業に興味を持ち、友人に農業を教えてもらいました。だから、農業への興味とドキュメンタリーを撮るということが、今回の作品につながったんです。

Q: 題名の“三谷”とは、どういう意味ですか?

CY: 映画の中でブルドーザーが毎日畑や家を破壊していく、抵抗運動もうまくいかず、村人の間でも意見の違いがでてきて、火災も起き、とても悩みました。そんな時、尺八の先生につらい現状を見た心の重さを話しました。先生は尺八を演奏してくださり、その時私は感動して重荷がとれる気がしました。その中の一曲が『三谷』でした。人生とは3つの谷、つまりいろんな困難を乗りこえなければならないという意味で、これは村人が向きあう現実と符合すると思い、ラストシーンにこの曲を使い、題名に付けました。

Q: 尺八の曲が流れる、破壊された村をカメラが進むシーンは、とても印象的でした。

CY: あのシーンは、私の心情を表現しました。しかし村人の中では賛否が分かれました。

Q: 監督は小川紳介監督の本を読み、影響をうけたそうですが、今作を撮影する時に意識したことはありますか?

CY: 小川監督の本からは、とても影響をうけました。小川監督はその場所で生活して一緒に考えながら、議論や時には喧嘩をして、みんなでどうすれば本当の自由を勝ちとることができるかを、考えたんだと思います。今回の菜園村についても、新しい村に移転してもっといい暮らし、もっといい人生をおくるため、新たな自由を得るためにどのように村人たちが闘い、目標に向かって進んでいったかということ、私はその精神を小川監督のように伝えたいと努力しました。しかし十分にできたかどうかは、分かりません。

(採録・構成:楠瀬かおり)

インタビュアー:楠瀬かおり、佐藤寛朗/通訳:樋口裕子
写真撮影:木室志穂/ビデオ撮影:木室志穂/2013-10-13