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YIDFF 2013 アジア千波万波
標的の村
三上智恵 監督インタビュー

見せかけの公正・中立ではない、沖縄


Q: 監督は現在沖縄で生活をされていますが、今作を作る際、どのような立場で撮影されたのですか?

MC: これまで父の仕事の関係で、さまざまな地域で生活していました。しかし、人生のうち最も長い間生活している沖縄を、自分の場所だと思っています。今作も、沖縄という一地域を撮影したのではなく、自分が本拠地としている場所である“沖縄”の問題を、当事者として120%の力で作りました。

Q: 今作は、元々は沖縄だけで放送された作品と聞きましたが、どのような経緯で作られたのですか?

MC: 普天間基地の県外移設など、沖縄は多くの点で国に騙されてきました。ここまで馬鹿にされているのに、今回のオスプレイ問題を撤回できなかったら、沖縄の抵抗はもう終わるのでは、という焦りがあります。そこで配備前に、全国ネット放送用の30分版を制作しました。それは、安次嶺現達(あしみね げんたつ)さんが放心状態になって「県民がみんな反対してくれれば大丈夫じゃないか」と言ったところで終わっています。その数週間後にオスプレイは配備されてしまうのですが、それを加えて同じ番組の1時間版を作る気持ちにはなれませんでした。ところが、反対する県民によって基地が封鎖されたという前代未聞の出来事について、うちの放送局以外ではほぼ報道されなかったのです。直後に、私が講義をもっている普天間基地の隣にある沖縄国際大学の学生に聞きましたが、多くは基地で警官と市民がぶつかり合ったことさえ知らなかった。愕然としました。なかったことにされるよりはと、普天間封鎖とオスプレイ飛来の場面を入れて1時間版を制作しました。それがこの映画の原型です。

Q: 映画にするうえで、どのようなシーンを付け加えましたか?

MC: ひとつには、テレビでは流せなかった“非暴力実力行使”といわれる座り込みの映像です。この行為は、抗議行動でもありますが、阻止行動でもあります。前後の脈絡もなく短い時間で流してしまうと、誤解を生むことがあります。しかし、問題意識を持ち今作を見に来る人たちを信じ、ありのままの沖縄の現状を見てほしいと思いました。

Q: 中立な立場で撮るのではなく、自分の伝えたい感情をもった人たちの映像を映しているように見えたのですが?

MC: 今作を撮影しているカメラマンや記者は、泣きながらリポートをしていました。それは、彼らだって当事者だからです。オスプレイが飛び交う島に暮らし、子どもを育てている私たちが、あえて取り繕って客観でございますと見せる必要はあるのでしょうか? また、ジャーナリズムの大前提は権力の監視であって、権力のある人とない人の間に立って中立です、というものではありません。確かに、少数派の意見を描くことには勇気がいり、幾つかの意見を出して中立という形をとる作品は多いです。しかし、今作は沖縄県民による沖縄県民のための放送です。誰に対する中立報道なのか。基地に反対している人しか出てこないという批判はよく受けますが、“賛成派”の存在を待っているという、見る側の論理がそこにあります。わかりやすい悪者を可視化して納得したい人は誰なのか。それよりは、高江の子どもたちを泣かせているものの正体を一緒に暴き出してほしいと思います。

(採録・構成:岩田康平)

インタビュアー:岩田康平、西山鮎佳
写真撮影:大宮佳之/ビデオ撮影:大宮佳之/2013-10-12