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YIDFF 2013 未来の記憶のために――クリス・マルケルの旅と闘い
ポンピドゥーセンター キュレーター
エティエンヌ・サンドラン 氏インタビュー

「クリス・マルケル」という未来


Q: キュレーターという仕事だけでなく、エティエンヌさん自身も作品を制作していますが、クリス・マルケルからはどのような影響を受けていますか?

ES: クリスとは仕事だけでなく、個人的な関わりを持ってきたと感じています。彼の意見を尊重し、彼がしたいと思っていることをできるように、個人的に手助けをしてきたと思っています。クリエイターとしての私は、クリスの作品にまつわる作品を制作しています。共犯関係とまではいきませんが、彼にアイディアを提案して、合意してくれた場合、作品を制作しています。今回の映画祭で、『ル・デペイ』という日本を撮影した写真集のテキストを朗読しながら、上映するということを試みます。来年のはじめに『レベル5』の主演だったカトリーヌ・ベルコジアと共に、パリで朗読をすることにもなっています。また、クリスの短編映画を利用して、パフォーマンスを作りました。それはクリスが自分の娘のように思っていたマルーシアというダンサーのパフォーマンスです。

Q: クリス・マルケルが、様々なメディアで作品を制作する姿勢についてどう思いますか?

ES: 彼は、すべての新しいものに多大な好奇心をもっていた人ですから、コンピュータなど新しいメディアを取り入れていったことは当然の成り行きだったように感じます。しかし今、作品の「保存」という問題がおきています。コンピュータの分野では、システムがどんどん新しくなっていくので、技術的なフォローアップを継続していかなければならないのです。しかし、クリスは少し違う考え方をしていました。『ザッピングゾーン』というインスタレーション作品の中に入っているコンピュータプログラムについて、聞いたことがあります。その時、彼は「このプログラムが働かなくなったら、プログラムの命が終わったのだから、そのままにしておいたほうがいい」と言ったのです。すなわち彼はプログラムの人生を、人間の人生と同じように考えていたのです。美しいメタファーだったと思っています。

Q: クリス・マルケルの作品はこれからどのように、世に引き継がれていくと考えていますか?

ES: クリス・マルケルの作品がこれから世界に影響をおよぼすというよりは、クリス・マルケルという生き方そのもののモデルが重要になってくると私は考えています。彼はあまりにもすばらしいモデルであって、思想の模範であり、20世紀あるいは21世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチだと思っています。それ以上の言い方はありません。彼の作品はすべての世代に訴えかけるものではないでしょうか。若い映画監督の新しい映画を多く探しましたが、クリス・マルケルが映画で行っていた提案より先に進んだ提案をしている人はいなかったのではないかと思います。まだ誰もクリスを乗り越えられた人はいないと感じました。若い世代がクリス・マルケルの作品を自分のものにするために、世界に対する好奇心を持って、世界を探求し、世界を見て、世界を批判し、世界を観察する。このような世界に対する態度、それが重要なのです。

(採録・構成:飯田有佳子)

インタビュアー:飯田有佳子、野村征宏/通訳:福崎裕子
写真撮影:加藤孝信/ビデオ撮影:加藤孝信/2013-10-12