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YIDFF 2015 日本プログラム
桜の樹の下
田中圭 監督インタビュー

人生の重さと生命の温かみ、彼らの生きた証


Q: 戦後の高度経済成長期に労働力として都会に出てきた人々は、現在の日本を作った功労者ということができます。でも、特に若い世代には、なかなかそのように認識されていないのではないか、という気がします。監督は、どのようにお考えでしょうか?

TK: 私は川崎出身なのですが、住んでいて思うのは、川崎出身の人は本当に少ないということです。多くの人々が、働くために上京し、結婚して家族が増えて、そしてそこに定住しています。実際、私の両親もそうです。だから私も、川崎に対してあまりふるさととか故郷とか感じていないんですよね。そういう街だな、と昔から思っていた部分があり、そこでひとりになってしまった老人たちの存在というのが、心に引っかかっていました。野川西団地を選んだのは、学生のころに実習で撮影した方が住んでいたからです。通ううちに、敷地内を歩いているおじいちゃんおばあちゃんが、不思議に生命力に満ち溢れているように見え、その雰囲気がなんだかおもしろそうだなと思ったんですよね。なのでそこから撮影を始めてみようと思いました。

Q: 田中監督にとって、団地の住人たちはどのような存在なのでしょうか?

TK: 一緒に住んでいる祖母は、もともとは好き勝手に動く人だったのですが、けがをしてデイサービスに通い始めてからというもの、なんだか生気を失ってしまったように感じていました。しかし、団地の方々は祖母と同じような年代なのに、まだ生きるエネルギーをたくさん持っています。自分で生きていかなきゃ、誰も自分のことをやってくれない、そういう状況の中で生きているという、力強さを持つ人々です。

Q: この『桜の樹の下』は、前回2013年の「ヤマガタ・ラフカット!」に出品されていますよね。「ラフカット!」という場は、監督にとってどういう場になりましたか?

TK: 出してよかったと、とても思っています。やはり私が1人で撮り、近い年代のスタッフ3人ほどで見ていると、その作品が人に伝わるかどうかがわかりません。そんなときに、違う年代や土地柄の人に見てもらえる機会は、とてもよかったと思います。それに加え、「ラフカット!」に出したことは、いいプレッシャーにもなりました。何人かの方に「完成を期待している」「おもしろかった」と声をかけてもらったことで、この作品を完成させて次の山形に出さなきゃな、という目標になりました。

Q: 作品に登場する人物たちは、みな死を意識していました。ある人は、自分の死後、解剖して役だててほしいと言い、またある人は遺言のなかで、自分は人の役にたてたのだろうかと問うています。そんな彼らは、共通して人の役にたつことを重視する価値観を持っているのだと思いました。

TK: 取材をしていて、私もそれを感じました。あの年代の人々は、とにかく働かなくてはいけない時代の人々でもあったと思います。今なら、誰かの役にたつことよりも、自分のやりたいことを選ぶ人が多いかもしれないです。でも彼らはそれよりも先に、まず食べていくために働かなきゃいけない、自分のことを二の次にしてやってきたということなのではないかなと私は思っています。相手をすごく重んじる人たちだな、と強く感じました。

(採録・構成:原島愛子)

インタビュアー:原島愛子、木室志穂
写真撮影:山根裕之/ビデオ撮影:山根裕之/2015-10-06 東京にて