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YIDFF 2017 アジア千波万波
そこにとどまる人々
エリアーン・ラヘブ 監督インタビュー

故郷の大地と自然を愛してやまない男


Q: 主人公のハイカルさんは、必死に畑や飲食店を切り盛りしながら、その土地を愛しています。とても素敵で、素晴らしいことだと思うのですが、監督は、ハイカルさんとどこで出会い、なぜ彼を撮ろうと考えたのでしょうか?

ER: 友人と山をハイキングしているときに、その友人からハイカルさんの話を聞き、実際に彼の経営しているレストランに行ったのが最初の出会いです。そして、何もない、誰の土地でもないような山の中で、彼はひとりで暮らしていて、それだけで映画にピッタリだと思ったのです。さらに彼にはカリスマ性があり、ただの農民ではなく、彼自身がレバノンの歴史を表していると思ったので、彼を撮ろうと考えました。

Q: ハイカルさんは、一所懸命仕事をしていますが、もし彼が死んでしまったら何も残りません。その点を監督はどのように考え撮影していたのでしょうか?

ER: もし彼が死んでしまったらそれは悲しいことだけれど、私はもっとポジティブに考えています。彼は、自分ができることを精一杯行っていて、出ていった家族がいつ戻ってきてもいいように準備をしています。息子さんたちがこの映画を観て、故郷に帰ってきてほしいと私は考えています。

Q: 監督がレバノンを撮る理由は、そこに希望があるからでしょうか?

ER: 私は映画を撮るうえで、特定の土地のことではなく、土地の問題を映画でみせて、人に考えさせることが大切だと思います。土地というよりも「中東」という括りの中で、問題を扱いたいのです。中東の人たちは、同じような現実をみんな生きているからです。そして、今回の映画の舞台はレバノンですが、パレスティナの人々のことも念頭に置いていました。パレスティナには、ハイカルさんと同様に、いろいろな脅威が周りに迫るなか、「故郷の土地を離れたくない」人々が多く暮らしています。

Q: なぜ、ハイカルさんはそこの土地を守ることにこだわるのでしょうか?

ER: まず、ハイカルさんには、この土地に「所属している」という自然な感覚があるからだと思います。あの場所に留まるということが、ハイカルさんとお父さんの夢でもありますし、そこで何かを作りだすというのが彼の夢でもあったのです。さらに、ハイカルさんと同じキリスト教の人たちは、近くでテロなどが起こると他のところへ逃げてしまいますが、彼だけは、強い意志でそこの土地に留まりつづけている。これはすごいことです。

Q: では、ハイカルさんと他のクリスチャンでは何が違うのでしょうか?

ER: 「ハイカル」という名は、アラビア語で「寺院」という意味なのですが、彼はその土地の寺院になりたいという信念を持っています。彼の名前が彼を強くしてくれているのです。さらに彼はクリスチャンです。誰かのためになるのならば、その犠牲になるのも厭わないということで、神との約束を果たしている側面もあると思います。

(構成:棈木達也)

インタビュアー:棈木達也、桝谷頌子/通訳:中沢志乃
写真撮影:櫻井秀則/ビデオ撮影:薩佐貴博/2017-10-06