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YIDFF 2019 アジア千波万波
夏が語ること
パヤル・カパーリヤー 監督インタビュー

夢の世界のように部族社会の生活を描きたかった


Q: はじめは、ひとつの物語が始まるのかなと思いましたが、そこに村の日常が入ってきます。作中の言葉すべてが、映画の詩的で美しい、幻想的な世界をより一層引き立てていたと思います。

PK: 最初は、蜂蜜を採っている男性の映画を撮りたかったのです。自然と一体となって仕事をしている彼の日々を撮りたいと思って撮影を始めました。ところがある日、村の女性たちと料理をしながらいろいろ話をしたら、彼女たちの話がとても興味深かったんです。大きな声では話せないけれども、という話をいっぱいしていました。彼女たちは、話したいことはあるのに、家で話す相手もいないという状況でした。でも彼女たちは、カメラの前では話したくないのです。そこで私は撮影はせずに録音することにしました。失われた愛について、いろんな困難や悲しみについての話が、そのなかにはありました。

 そういう女性たちの話も入れたいと思い、それらを俳句や詩のように組み立てていきました。録音したなかから詩的な部分を選びました。村の人たちは、マラーティー語の方言を話しています。それがとても詩的で「今日は暑いね」と言うときに、この映画のタイトルにもある、“Whats is the summer saying?”「夏はなんて言っているの?」と言うのです。彼女たちの話す言葉が、直接的でなく歌詞みたいで、私はそれがとても気に入っていました。全体的に詩的になったのは、彼女たちの方言のいいまわしのおかげもあるかと思います。

 一方、インドの夏は本当に暑くて、最悪で、ベタベタするし、むっとするし、湿気もすごいのですが、村の女性たちはそういうことも直接は言えないという面もあります。なので、このタイトルは、思っていることをはっきり言えないということも表わしているんです。

Q: 途中からモノクロになっていきますが、カラーとの使い分けはどのようにしましたか?

PK: モノクロにすることで、夢の世界にいるようにしたいと思いました。「起きてるの? 寝てるの?」みたいなセリフがあるのですが、あれはつまり「夢見てるの?」みたいな意味で入れました。ファンタジーのような、童話のような感じにしたかったのです。そういう雰囲気を保ちつつもしっかりしたイメージを伝えることを目指しました。1960年代にインド政府が作った、いろいろな地域の民族を写したドキュメンタリーが、たくさんあります。「この人たちはこういうものを食べています」みたいな映像なのですが、なぜこんな風に人間を見せるのだろうか? ちょっと変だなと思っていました。なので、この映画を撮りたいと思ったのです。

Q: 映画の中でイラストが出てきますが、あのように表現したのはなぜですか?

PK: 絵は、何が起きているかを語らずに伝えるために入れました。あの絵は私が描いたもので、プロフェッショナルなものではないですけれども、私の考えを伝えるために入れたのです。この作品の中に、私のナレーションはまったく入っていないんです。絵がその代わりです。また、蜂に関してテキストがいくつか入っていますが、あれも私の考えです。

(構成:猪谷美夏)

インタビュアー:徳永彩乃、田寺冴子/通訳:中沢志乃
写真撮影:森崎花/ビデオ撮影:猪谷美夏/2019-10-12