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YIDFF 2019 アジア千波万波
愛を超えて、思いを胸に
マリー・ジルマーノス・サーバ 監督インタビュー

映画で過去を見つめ直す意味


Q: この映画は、1970年代に起きた民衆運動を中心に取りあげていますが、なぜ今このテーマで映画を撮ろうと思ったのですか?

MJS: 新しい運動をするときは、歴史を見ることが大事です。2011年、アラブ各地で革命が起きた時に、労働運動や社会運動の映画を作りたいと思いました。これまでに労働運動や社会運動を扱った映画がアラブにはなかったからです。アラブの革命が始まったのを見ていて、「私たちの世代は、昔と同じパターンや過ちを繰り返している。何かが違うんじゃないか」と思ったんですね。歴史を見ることで現代の解決策を見つけだせたら、という思いでこの映画を作りました。

Q: レバノンの70年代初頭の女性活動家にパワーを感じたのですが、今もレバノンにはそのような女性は存在しますか?

MJS: 短い答えで言えば、いません。70年代、80年代とは状況がかなり変わっています。当時は、それぞれ違う考えを持っていることが認められていたけれど、今は、特定のひとつの考え方を重んじて、違う考えを許さない風潮があります。経済状況も変わり、生き残るため、いい仕事を得るために、自分の価値を証明しようと、ひとりひとりで頑張っている感じがします。世界中で、組織化することが非常に難しくなっています。中東では、昔の運動の歴史が記録からも記憶からも消されてしまって、組織化するというテクニックがみんなにありません。活動家は、何か起きたときにデモをしたり、救助したりといった反応はするけれど、労働組合のような組合を組織する、そういう基本的なテクニックを持ち合わせていないんです。映画のなかで、年配の方が自分たちはどういうことをしたか具体的に説明していました。どうやって人に話しかけて誘ったかとか、あなたにも関係あるんだよという一番近いゴールを説いて、それを大きなゴールにつなげていくというテクニックは重要だと思い、映画に組みいれました。

Q: レバノンでは民衆運動の挫折の結果、負の印象が強くなり、人々が同じように立ちあがることは難しくなった、とありました。この状況は、日本と似ていると感じます。映画を上映して、そうした空気を変える可能性や手応えは感じていますか?

MJS: レバノンも日本も同じで、過去の運動に対するリサーチが重要だと思います。みんな失敗をネガティブに捉えていますが、なぜそんなことが起きたのか詳細を知って、どの部分を変えて今後の運動につなげるのか、どの部分を改善できるかを考えなくてはなりません。運動が失敗したのも、みんな内部で何が起こっているかをちゃんと見ていなかった、把握できていなかったからというのが要因にあると思います。もちろん今の時代、運動するというのはリスクが高くなっていますが、まずはそれが必要です。レバノンで上映会に来た人から、「この映画はパラダイムシフトがあった」と言われました。「パラダイムシフト」の意味を具体的には説明してもらえなかったものの、私にとってはとてもうれしい意義のある一言でした。結局、映画は映画に過ぎないのですけれど、その小さなことから何か違いが起きるようなことがあったらいいなとは思っています。

(構成:宮本愛里)

インタビュアー:宮本愛里、大下由美/通訳:中沢志乃
写真撮影:舛田暖奈/ビデオ撮影:舛田暖奈/2019-10-13