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特別企画 アーカイブをめぐる対話


 歴史的な厄災を被った社会が復興に向かうとき、人々の記憶をつなぐ映像はどう継承されるのか。痛ましい記憶を甦らせることの是非や、凄惨な映像を若い人に見せることの躊躇は、映像記録があふれる時代特有の課題だ。

 2006年、プノンペンで「ボパナ視聴覚リソースセンター」がオープンした。カンボジアで30年にわたる紛争と内戦の時代が1992年に終結したとき、映画黄金期のフィルム300本以上を含め、カンボジアの映画文化はほぼ消失していた。少年時代に虐殺を逃れフランスに渡り、映画監督となったリティ・パン(『消えた画 クメール・ルージュの真実』等)は、「国民の家族アルバム」とも言える映像遺産を守るための施設を構想。フランス政府の支援を得ながら、カンボジア文化芸術省と共同で10年かけて誕生させた。

 ボパナセンターは、古いフィルムの発掘と修復にとどまらず、上映活動と映像制作者の育成など、人口の7割が30歳未満という若い国民に映像文化を広め、根付かせる教育活動を続けている。今回上映する2作品の若手監督は、センターで映画制作を学び、今ではカンボジアを代表する映像作家として世界に羽ばたいている。 このセクションでは、ボパナセンターの活動を参照しながら、あわせて東日本大震災による文化の断絶と再生について考えたい。

藤岡朝子



- レッド・ウェディング

Red Wedding

カンボジア、フランス/2012/クメール語/カラー/Blu-ray/58分

監督:チャン・リダ、ギヨーム・スウォン
製作:リティ・パン

1970年代後半のカンボジア、ポル・ポト政権下で25万人以上の女性が兵士と強制結婚させられた。30年の沈黙の後にそのことを法廷で語ろうと立ち上がる女性の物語。いつか語りうる体験のために、映像は何をなすのか。




- どこに行く

Where I Go

カンボジア、フランス/2012/クメール語/カラー/Blu-ray/55分

監督:ニアン・カヴィッチ
製作:リティ・パン

パティカは18歳の青年。顔も知らない父親は、カンボジア内戦が終結し初の選挙が行われた1992〜93年、国連の暫定統治下の平和維持活動で駐留したカメルーン人だった。肌の黒い私生児として差別されて育った青年が、未来を切り拓くため立ち上がる。