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ミゲルの戦争

Miguel's War

- レバノン、スペイン、ドイツ/2021/アラビア語、スペイン語、英語、フランス語/カラー/DCP/128分

監督、脚本、編集、製作:エリアーン・ラヘブ
撮影:バーセム・ファイヤード
録音:シャーディー・ロウコズ、アマンダ・ヴィラヴィエジャ
アニメーション監督:ファーディ・エル・サムラ
アニメーション監修:Fdz
音楽:マーゼン・クルバージュ
音響:ヴィクトル・ブレス
芸術監督:ナーデル・ムーサリー
衣装:アンソニー・シディヤーク
監督補:ナディーム・ホバイカ
ライン・プロデューサー:ネルミーン・ハッダード、マルタ・デル・ヴィーゴ
製作会社、提供:ITAR productions

ミゲルと名乗るレバノン出身のゲイの男。家庭にまつわる幼少期の暗い記憶と、レバノン内戦に参加し被った精神の苦痛はいまだ癒やされることがない。正面からの対話を試みる監督に対し、ミゲルは常に人を食ったような態度ではぐらかす。嘘、ジョーク、沈黙、そして強烈な哄笑の奥には、言葉にならない深い傷、語られることを拒否する戦争の影がある。精緻なアニメーション、演劇的手法なども多用し、複雑な脳内が幾重にも表現される。『そこにとどまる人々』(2016、YIDFF 2017)のエリアーン・ラヘブの新境地。(YM)



【監督のことば】人生においてミゲルのような刺激的な人物に出会える機会はあまりない。

 その過去を詳しく聞くうちに気づいたことだが、私がたまたま遭遇した相手は、比類なきストーリーをもつ例外的な人間だったのだ。ミゲルの物語はいくつもの層が豊かに織りなされ、派閥争いにとらわれた国の悲劇、信仰心の篤すぎる家族の個人的なドラマ、ゲイであることが恥とされるために必要とされる男らしさの証明、いまなお求め続ける純粋な愛といったものが一体となって語られている。

 ミゲルとの出会いが刺激となって作ろうと思い立った映画の内容は、過度な宗教的信念や、セクシュアル・アイデンティティをめぐるファシズムや政治属性や頑迷な考えなどが、家族という個人的経験にいかに負の影響をもたらしうるかを考察する、というものだ。そして私にとってその形式は、ナラティヴを問いに付すことも、それを表に出して壊したり改造したりすることもできる、ハイブリッドなドキュメンタリーが最善ではないかと思われる。そうすれば、戦争状態にあるとはどういう意味か――精神的な意味であれ、肉体的な意味であれ、はたまた政治的な意味であれ――についての個人と集団双方の認識に、新しく多様な意味を付与することにもなる。その意味ではミゲルの戦争とは、ありとあらゆる男女にとっての戦争でもあるのかもしれない。

 ミゲルという人物の複雑さはトラウマに触れた生の複雑さの反映であり、映画という形式のなかで彼のストーリーに分け入ることは、彼と私がともにその人生経験から浮かびあがる実存的な問いに向き合い、それとの折り合いをつけるひとつの手段となるだろう。

 本作はいわば、ふたりのそんな「精神浄化の旅」であり、私たちは手を取り合い、一歩ずつ、友情の精神をもちつつも衝突と気まぐれを繰り返しながら踏み出すのだ。


- エリアーン・ラヘブ

レバノンの女性映画監督。これまで短編映画、ドキュメンタリー監督作でいくつもの賞を獲得したほか、主な業績としては『Sleepless Night』と『そこにとどまる人々』(2016、YIDFF 2017)の長編ドキュメンタリー作品があり、後者は60以上の映画祭に出品、フランス多分野作家民事組合(Scam)エトワール賞など、7つの賞を受賞した。長編ドキュメンタリー第3作目となる本作は、このほどベルリン国際映画祭2021パノラマ部門でプレミア上映され、観客賞第二席とともにテディ賞長編映画賞に輝いた。また、ドキュメンタリー製作会社ITAR Productionsの創立者としても活動しており、同社が製作した作品は、各種映画祭で賞を受賞するのみならず、ARTE/ZDF、France24、France3、NHK、アルジャジーラ・ドキュメンタリー、アルジャディードといった国際テレビ網で放映もされている。