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  • 審査員
    アラニス・オボンサウィン


    ●審査員のことば

    聞くことは、見ることだ

     ドキュメンタリーは、これからもずっと必要とされ続けるだろう。ドキュメンタリーとは、人々が自分の物語を語ることができる場所だ。

     私は、ビジョンと夢に導かれた民族の出身だ。アベナキは、すべてのファースト・ネーション(先住民族)と同様に、カルチャーショックで苦しんできた。1900年代初頭から50年以上もの間、数え切れないほどの間違った物語が、スクリーンで語られ、後にテレビや他の多くの場所で語られてきた。私たちの民族について書かれた歴史書については、言うまでもない。この期間を、「沈黙の陰謀」と呼んだ学者もいる。この「沈黙の陰謀」の時代に、新しい民族“ハリウッド民族”が生まれ、私たちは“見えない民族”となった。

     ドキュメンタリー映画作家は、まず第一に、自分たちの物語を語ってくれる人々の、尊厳を勝ち取らなければならない。物語は彼らの人生であり、そしてすべての人生が神聖だ。そのため、まず何よりも真剣に耳を傾けることが大切になる。聞くことは、見ることだ。私はまず、一対一で人々の話を聞き、その声だけを録音する。そうすることで、カメラを意識せずに話してもらうことができる。そして、カメラでの撮影が始まると、そこにはすでに確固とした信頼関係が存在する。なぜなら、まず彼らの言葉に耳を傾けたからだ。彼らの物語を、本当の意味で聞いたからだ。

     技術が発達して映画とテレビが登場すると、それを民族の精神世界への脅威だと考えるファースト・ネーションも存在した。あまりにも多くのものが失われたが、私たちの実生活や儀式のいくつかは、まったく撮影されていない。

     1950年代初頭から、私たちの多くは、教育システムを変え、そして最終的にはドキュメンタリー映画製作の世界を変えようと、努力を重ねてきた。現在、私たちの民族でプロの仕事を十分にこなせる才能ある人材が、映画やビデオ制作、ラジオ放送の現場のあらゆる場所に存在している。それは私たちにとって、この力を民族全体に広げ、彼らの声を世界に届けられるということを意味している。


    ニューハンプシャー州のアベナキ族のテリトリーに生まれ、生後6カ月でケベック州オダナクに移る。カナダを代表するドキュメンタリー映画作家のひとり。自身先住民作家として、カナダ先住民族問題を妥協のない目で描いたドキュメンタリーを30本以上監督。1990年のオカでの危機を扱ったシリーズの第1作『カネサタケ、抵抗の270年』(1993、YIDFF '93上映)は、モホーク族がケベック州のオカとカネサタケで土地の返還を求めて蜂起した事件を描いており、18の国際的な映画賞を獲得。ナショナル・フィルム・ボード・オブ・カナダ(NFB)製作の長編ドキュメンタリー『アベナキの人々』は、2006年秋に公開された。最新作は『Gene Boy Came Home』(2007)。38年にわたりNFBでドキュメンタリー映画を監督。自分の民族の声を世界に届けたいという願いに触発された、強い社会的メッセージを持つ映画を世に送り出している。1983年、映画製作と活動を通して、先住民族の地位向上と伝統文化の保存に貢献した功績を認められ、カナダ勲章を授与された。


    アベナキの人々

    Waban-Aki: People from Where the Sun Rises

    - カナダ/2006/英語、フランス語、アベナキ語/カラー/ビデオ/104分

    監督、脚本、製作:アラニス・オボンサウィン
    撮影:フィリップ・アミゲ 
    編集:アリソン・バーンズ
    録音:レイモン・マリクー、イスマエル・コルデイロ 
    音楽:フランシス・グランモン 製作総指揮:サリー・ボックナー
    製作会社、提供:ナショナル・フィルム・ボード・オブ・カナダ

    イヴォンヌ・ムサドクは、椅子に座って身を乗り出す。彼女はアベナキ族の土地オダナクに、もう1世紀以上も住んでいる――そして、彼女の語る物語は尽きることがない。「司祭が家の中にずかずかと入ってきて、踊るのをやめろと命令したもんだよ。そんなことは悪魔の業だって言ってね」。彼女はそこで口をつぐむ。その目がいたずらっぽく光る。「でもね、私は悪魔なんか信じちゃいないよ。あんたは信じるかい?」。ムサドクの会話相手は監督。カナダのファースト・ネーションの年代記を編むことに40年近くを費やしてきた監督は、『アベナキの人々』で原点に立ち戻るため、育った村に戻り、自分の民族の物語を叙情的にうたいあげる。