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  • 『あゝ故郷』を聴く!
  • Part 6 澤登 翠のサワトーキー:『あゝ故郷』を聴く!


     映画評論や監督紹介でもあまり作品名を見ることのない溝口健二監督が山形を舞台に撮った『あゝ故郷』のフィルムは、残念なことに今は現存しない。しかし、幸いなことに依田義賢氏が書いたシナリオは、『日本映画シナリオ古典全集』(キネマ旬報社)に掲載されたもので今でも読むことができ、脳裏に作品の断片を思い描くことができる。今は山形銀行の駐車場になって見る影も無いが、在りし日の旅篭町にあった後藤又兵衛旅館に逗留しながら撮られたという作品は、どんな山形の町並みを映し出していたのだろうか。今回は、当代一流の弁士澤登翠氏の活弁によって、この失われし映画を闇の中でじっくりと聞き、当時の山形に思いを馳せようというものである。題して「サワトーキー」。

     夢想家の父親と、婚礼の日を夢見て心ときめかせる娘。しかし、父親は経営する温泉ホテルが火の車で少しでも金がほしい。娘は妊娠しており婚約者との生活を夢みるが、婚約者は経済の勉強をしようとアメリカに渡ろうとしている。運命に翻弄され紅涙をしぼる娘・お美代の運命はいかに! 澤登翠氏が並々ならぬ熱意と情熱をもって語り尽くし蘇る、幻の映画『あゝ故郷』を「サワトーキー」で是非ご堪能あれ。

    (宮澤啓)


    あゝ故郷

    Ah, My Hometown

    1938/日本語/モノクロ/35mm/64分/フィルム現存せず
    監督:溝口健二 原作:小出英男 脚色:依田義賢 
    撮影:青島順一郎 撮影助手:岡崎宏三 美術:水谷浩 
    出演:河津清三郎(役:滝野信吉)、山路ふみ子(役:竹村お美代)、清水将夫(役:坂本和夫)、加藤精一(役:竹村金造)、浦辺粂子(役:滝野の妻 おため)
    製作会社:新興キネマ 
    ※サワトーキー版『あゝ故郷』として、台本をもとに、新たに構成・演出して上演いたします。

    - 弁士:澤登 翠

    東京都出身、法政大学文学部哲学科卒業。故松田春翠門下。「伝統話芸・活弁」の継承者として“活弁”を現代のエンターテインメントとして甦らせ、現在までに500本以上、様々なジャンルの無声映画の活弁を務めている。1989年度日本映画ペンクラブ賞をはじめ、2002年度文化庁芸術祭優秀賞(演芸部門)他を受賞。国外でも88年、アヴィニョン芸術祭招待、91年、ロッテルダム芸術協会主催「ヴォイス・フェスティバル」、94年にオーバーハウゼン短篇映画祭に出演するなど海外公演で高い評価を得ている。大の映画ファンらしい、作品への愛情あふれる、それでいて適確な解釈による多彩な語り口はファンも多い。林海象監督の映画『夢みるように眠りたい』(1985)、『二十世紀少年読本』(1989)にも出演。著書に 『活動弁士 世界を駆ける』(2002、東京新聞出版局)などがある。